マンション建替円滑化法とは?建替えや要除却認定に関する規定をわかりやすく解説

更新日:2024年1月#タグ#タグ#タグ#タグ#タグ

区分所有法(※1)以外にマンションの再生に関係する法律としてマンション建替円滑化法(※2)があります。
今回は、マンション建替円滑化法の内容や、法律が定める手続きについてマンション建替え研究所 特任研究員の向田(むかいだ)が解説します。

※1:正式名称「建物の区分所有等に関する法律」
※2:正式名称「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」

マンション建替円滑化法とは?

――マンション建替円滑化法はどんな法律なのですか?

マンション建替円滑化法は、建替えを含めたマンション再生をスムーズに行うための手続きやルールを定めた法律です。正式名称を「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」といいます。当初は、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」という名称で「等」の位置が異なり、マンション建替えについて、「建替組合」や「個人施行」、「権利変換」等について定められました。その後、複数回の改正を経て、耐震性が不足している等のマンションや団地についての「(特定)要除却認定」、「容積率の特例」や「マンション敷地売却制度」、「団地の敷地分割」等についても定められました。

――「容積率の特例」とはどのような規定ですか?

2014年の改正で、要除却認定マンションを建て替える際、行政の認可により容積率が緩和される「容積率の特例」が導入されました。
容積率が緩和されれば、建替えによって建築できるマンションの床面積がより大きくなることで区分所有者の皆様の経済条件が改善する可能性があります。

――経済条件を改善できるとはどういうことですか?

容積率の緩和が適用されることで、建替え後のマンションの床面積が増加し、工事費用の増加を差し引いても区分所有者の皆様の資産の評価が高まるということです。
下図をもとに説明すると、最新仕様のマンションになることと床面積の増加により、中古価格の総額20億円のマンションが、建替え事業における評価額で35億円になるとします。同マンションが、容積率の特例を利用し、床面積の一層の増加を実現できれば、工事費の増加等を差し引いても、評価額(区分所有者様の経済条件)は一層の向上が見込めます。

■マンション建替えに関する費用と経済条件について詳しくは下記の記事をご覧ください。
マンションを建て替えるタイミングや流れとは?方法と費用も解説

■容積率の緩和を利用して評価額が大きくなるイメージ

■容積率の緩和について詳しくは下記の記事をご覧ください
マンション建替えにおいて利用可能な容積率の緩和特例とは?メリットや事例を解説

――マンション建替円滑化法には、容積率の緩和以外にも再生を促すような内容はありますか?

2020年の改正によって、除却の必要性にかかる条件が追加されました。
また、「マンション敷地売却」の対象が拡大され、「団地の敷地分割」についても定められました。これらは、「耐震性の不足」、「火災に対する安全性の不足」や「外壁等の剥落により周辺に危害を生ずるおそれ」などのいずれかに該当し、「特定要除却認定」を受けることが前提となります。
また、「容積率の緩和」については上記に加えて、「給排水管の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ」や、「バリアフリー基準への不適合」等も条件に追加され、対象が拡大されました。

■要除却認定の類型と利用可能な制度

※国土交通省「マンション建替円滑化法の改正概要」より作成
※表は「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」の条文にもとづく

マンション建替円滑化法を利用した建替えの特徴

――マンション建替円滑化法を利用した建替えの特徴とは?

マンション建替円滑化法を利用した建替えには個人施行と組合施行があります。個人施行は、施行者に関する区分所有者全員の合意が必要であること等の理由から一般的ではありませんので、ここでは組合施行についてご説明します。組合施行の特徴は、大きく3つあります。

1つ目は行政の認可を受けて設立される「マンション建替組合」が事業の主体となることです。マンション建替組合は、マンション建替円滑化法が定めた各種の手続きや、事業に関係する契約の当事者となります。

2つ目は、組合の設立や、建替えに関する重要な手続きについて、行政の認可を受けることです。それによって手続きの透明性や公平性が担保されます。

3つ目は、権利変換計画によって区分所有者等の権利の取り扱いが決定することです。建替え参加者の5分の4以上の賛成を得た上で、行政の認可を受けることで権利変換計画は確定します。

マンション建替え手法の比較について

――マンション建替円滑化法によらない建替え手法もあるのですか?

マンション建替円滑化法による建替え以外に、等価交換事業による建替えがあります。
それぞれの違いのひとつに、事業期間が挙げられます。
マンション建替円滑化法の場合、行政の認可を受けながら事業を進めますので、申請から認可まで一定の時間がかかります。
等価交換事業では、すべての所有権をいったんデベロッパー等に移転(売却)し、デベロッパー等が主体となって事業を進めます。行政の認可が不要なため事業期間が短縮できる可能性があります。
ただし、等価交換事業では、すべての区分所有者とデベロッパー等が個々に契約する必要があります。そのため、区分所有者が多い団地や大規模マンションの場合は、マンション建替円滑化法による事業よりも時間がかかる可能性もあります。

■マンション建替円滑化法について詳しくはこちらの記事をご覧ください
マンション建替円滑化法とは?建替えや要除却認定に関する規定をわかりやすく解説

建替え以外の再生方法

――マンション建替円滑化法で可能になる建替え以外の再生方法について教えてください

マンション建替円滑化法ではマンションと敷地を一括して売却する「マンション敷地売却制度」が定められています。マンション敷地売却制度の利用には、「特定要除去認定マンション」であることが前提となり、区分所有者と議決権および敷地利用権の持分価格の各5分の4以上の賛成によるマンション敷地売却決議が必要です。また、決議の前に行政による特定要除去認定を受ける必要がありますが、認定を受けることによって、管理組合はそのマンションを除却する、つまりは取り壊すことについての努力義務が発生します。

■要除却認定について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
要除却認定マンションとは?認定の条件や認定を受けることによるメリットを解説

――マンション敷地売却制度のメリットとは?

区分所有法による建替え決議は、区分所有建物への建替えを行うことが前提です。また、マンション建替円滑化法による建替えは、マンションへの建替えが前提となります。一方で、マンション敷地売却決議後に設立されるマンション敷地売却組合は買受人にマンションを引き渡した時点で事業が完了し、建替え後の建物に関する制約はありません。立地が良い等の理由から、区分所有建物(マンション等)への建替えよりもオフィスビルなどへの建替えをすることによって従前資産評価が高くなる場合などではメリットがあるといえます。

3つの再生手法の特徴をまとめます。

■マンション敷地売却制度について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
マンション敷地売却制度とは?利用のメリットや手続きの流れを解説

<マンション建替円滑化法による建替えの特徴>

・区分所有者が参加する、マンション建替組合が事業の主体となる
・建替え事業に関する重要な決定は建替え組合の決議及び行政の認可が必要であり、公平性・透明性が担保される
・権利変換計画により、抵当権等を含め、権利の移行が一括で行われる
・行政の認可を受けながら進めるため、事業期間は長くなる傾向がある
・建替え後のマンションの区画面積に制約がある(原則50平方メートル以上)
・マンション以外(商業ビルなど)への建替えは認められない
・権利変換手続きでは、借地権マンションを所有権マンションに変更することができない

<等価交換事業による建替えの特徴>

・デベロッパー等が事業の主体となる
・行政の認可が不要なため、事業期間の短縮できる可能性がある
・商業ビル(区分所有)や小規模住戸マンションへの建替えも可能
・借地権マンションを所有権マンションに建て替えることもできる
・参加する区分所有者全員とデベロッパー等との契約が必要であり、抵当権等は抹消(債務返済)が必要

<マンション敷地売却制度の特徴>

・建替え後の建物計画に制約が無く、商業ビル等への建替えを前提とした評価が可能
・マンション敷地売却決議前に「買受計画」について行政の認可を受けるため、資産の評価について公平性・透明性が担保される
・抵当権や借家権などの権利は個別の同意がなくとも「権利消滅期日」に消滅(補償金の支払いは必要)
・特定要除却認定の取得が前提となる
・建替え後の建物の区分所有権の取得を希望する場合、デベロッパー等と別途契約が必要
・税制上の特例(買い替え特例)は対象外

再生手法はそれぞれ、関係する法律や、必要な手続きが異なるため、管理組合が単独で検討をすることは難しいといえます。まずは専門家に相談することをおすすめします。

記事監修
マンション建替え研究所 特任研究員
向田 慎二
資格:マンション管理士 / 再開発プランナー / マンション建替えアドバイザー
旭化成不動産レジデンスが参画した、多くのマンション建替えで管理組合をサポート

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