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「わが子の老後」を想像する|第3回

ペット共生型賃貸住宅で迎える老後:犬編(前編)

「住みやすい家」はどんなものかと聞けば、答えは住む人の年齢によって全く変わるでしょう。
住み慣れたわが家も年をとれば段差がつらくなったりしますが、ペットにも同じことが言えます。わんちゃんフレンドリーな「ペット共生型住宅」においても、愛犬の加齢にともなってカスタマイズが必要になってくるはずです。

しかし老犬介護に大掛かりなリフォーム工事は必要ありません。置くだけの簡単設置で老犬に優しい住まいに変えられる商品が、ホームセンターや通販で簡単に手に入りますよ!

そこで今回から二回にわたって、老犬ホームにも設置されている介護グッズを紹介したいと思います。ぜひ「シニアペット共生型住宅」を手作りするときの参考になさってください。

★ 介護グッズ選びは三つの目線から

私が工務店を経営していた頃、介護リフォームの仕事で苦労したのは、「介護される人」と「介護する家族」それぞれに求める便利さが異なる点でした。現在老犬ホームでも、「介護される犬」にとって便利な設備が「介護するスタッフ」には不便だったりすることがありますが、そんな時はやはり「犬からのリクエスト」が優先されることになります。

さらに賃貸住宅では「住まいからのリクエスト」にも耳を傾けてください。愛犬を最期まで同じ環境で見守り続けてあげるためには、時には住人にとって不便なものでも、介護の現場である住まいを破損や汚損、臭いや騒音のトラブルから守ることが最優先事項になるからです。

それでは、次の三名の目線から介護グッズのメリットとデメリットを語ってもらいましょう。

愛犬の目線
「だんだんできないことが増えるボクに安全なものを選んでね。」
飼い主の目線
「生活のジャマにならず、お手入れも簡単 なものが良いわ。」
住まいの目線
「内装を保護できて、退居するときに跡が残らないものが良いな。」

【家具】ソファやベッドの昇り降りに
「ペット用ステップ・スロープ」

➀お気に入りの場所への安全ルート

②高齢犬は更に安心なスロープタイプ

犬は基本的に高い場所が苦手ですが、ソファやベッドは別。飼い主さんと一緒にくつろぐことが何よりの幸せというわんちゃんも多いでしょう。
しかし飛び乗りや飛び降りといった習慣はケガやヘルニアの原因に。そもそも犬の体は激しい昇降運動に不向きなのです。かといってソファやベッドを禁止にするとかわいそうだし、大切なスキンシップの時間がなくなってしまう…。

そこで提案するのが、若いうちからペットステップ(写真➀)を使って安全に好きな場所へ昇り降りする習慣作りです。

シニア犬にはペットスロープ(写真②)が安心。できるだけ幅広で勾配が緩いものを選んでください。場所をとるのがネックですが、折り畳み式なら使わない時はしまっておけますよ。

ただし視力や足腰が衰えた高齢犬はスロープを使っても落下事故の危険があります。そのころには安全な床上だけの生活に切り替え、今度は飼い主さんが愛犬の目の高さでスキンシップするようにしてあげてくださいね。

「本当は飛び降りるのが怖かったからとっても安心!」
「少し場所をとるけど毎回抱っこする必要が無くなるわ。」
「飛び降りた時の床のキズと階下への音がなくなるよ。」

【壁】愛犬を家の中の危険からガード
「ペット用フェンス」

➀フレキシブルな連結タイプのフェンス

②キレイにはがせる腰壁クッションシート

シニア犬オーナーに心配事を尋ねたとき、必ず上位に来るのが「視力の衰え」です。
メガネは使えないわんちゃん、安全なはずのわが家で壁にぶつかったり、家具にはさまったり…、シニア期は目の離せないシチュエーションが増えていってしまいます。

家事の間やお留守番の時など、安全のためにはケージやサークルに入れるべきですが、できればお部屋を自由に歩かせてあげたいですよね。
そんな時は連結型ペットフェンス(写真①)をお勧めします。
お部屋の形や家具の配置に合わせて自由に壁を作ることができるタイプです。これなら行ってほしくないところだけを囲えるので、愛犬を一か所に閉じ込める必要がなくなりますよ。
ケガやスリ傷を防ぐために、柔らかく表面の滑りが良い材質を選ぶのがポイント。
老犬ホームの現場でも、認知症で前にしか進めず隅にはまってしまったり、徘徊してしまう子のガードには欠かせないグッズなのです。

また、フェンスを置かない壁には腰壁用クッションシート(写真②)を貼っておくと、愛犬と壁を保護してくれますよ。

「目が見えなくなってもつるつるした柔らかいカベに囲まれていれば安心!」
「見栄えが悪いし移動のジャマに。愛犬のお世話のたびに跨ぐのも危ないわ。」
「ボクのカベが汚れなくてすむよ。若いワンコの引っかきキズ防止にも。」

まとめ

わが子との暮らしで刻まれていく壁や床の傷み…、多くの飼い主さんにとって退去時の修繕費用は気がかりでしょう。
私は賃貸物件の原状回復工事も沢山請け負いましたが、ペットから保護されていなかった内装は大抵の場合、部分修復では済まないダメージを受けていました。特に犬は年を取るほど住まいを汚し、傷つけながら生活することになります。介護用品選びはわが子の安全だけでなく住まいの保護も重視して、立つ“犬”跡を濁さない自宅介護を目指してください。
次回も引き続き、シニア犬と住まいにやさしいリビングアイテムをご紹介します。

特別企画

「わが子の老後」を想像する

渡部 帝氏プロフィール

老犬老猫ホーム東京ペットホーム 代表
一般社団法人老犬ホーム協会 副会長
元工務店経営者

平成26年、初の都市型老犬老猫ホームとなる「東京ペットホーム(https://tokyo-cathome.com/)」を開業。その後老犬老猫ホームの基準作りを目指す業界団体「老犬ホーム協会」の設立を主導し、平成30年の発足後から副会長を務める。
「飼い主の心に寄り添う」姿勢を信条として年間200件以上の飼育困難相談に無休対応。
特にペットの介護破綻問題に取り組む活動は国内外の多くのメディアが紹介している。