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もっと知りたい“猫”のこと|第42回

病院嫌いな猫を病院へ連れていく方法

愛猫を病院に連れて行きたい、また健康診断の重要性は分かっているけど、連れていくのが大変という悩みを抱えている飼い主さんも多いでしょう。最近はフレンドリーな性格の猫も増えてきましたが、まだまだ警戒心が強い猫もいるでしょう。無理に連れていくと、検査できないだけでなく、体調を崩してしまうこともあります。
そこで今回は、少しでもストレスなく病院に連れて行けるポイントを解説します。

1:キャリー選び

リッチェル ダブルドア。上が開くのがポイント

まず猫を入れるキャリーにも、入りやすいものと、そうじゃないものがあります。入れやすいキャリーの特徴として、
①キャリー自体が自立する
②ジップではなく蓋で開閉ができる
③キャリーの上部が開く
という3点が挙げられます。私が勤務している病院ではこれらの特徴を満たすリッチェルというメーカーのキャリーを使っています。

キャリーの下半分を使用したまま点滴する猫

反対に入れづらいキャリーの特徴は、布製でキャリーが自立しない、ジップで閉める必要がある、出入り口が小さい、などです。
キャリーは診察中にも、土台の部分だけ使うこともできます。図のように検査や治療をキャリーの中で行うことで、猫のストレスを軽減できます。

2:キャリートレニーング

猫を病院に連れていくキャリーに慣らす練習をキャリートレーニングといいます。猫が、気が付かないように徐々にキャリーの中にいる時間を増やしていきます。

まずステップ1は猫が気に入るタオルやブランケットを探します。そこにしばらく座ってもらい猫の匂いがつくようにしましょう。

ステップ2ではそのタオルをキャリーの中に入れます。キャリーが組み立てられていると警戒しますので、下半分だけのキャリーの中にタオルを置きましょう。

その段階になれたらステップ3として、蓋をつけた状態に慣れてもらいましょう。

ステップ4ではドアを閉めてみます。あまり長く閉めていると怖がるので、最初は数分だけにしましょう。

それに慣れたらキャリーの中にいる時間を伸ばすのがステップ5です。10〜20分ほど入れてみましょう。

最後はキャリーに入ったまま持ち上げて、キャリーが揺れる事にならします。

いつ病気になって病院に行くことになるかわからないので、この工程を日頃から練習しておくと良いでしょう。やはり若い猫の方が順応しやすいので、子猫の時からやっておくことをおすすめします。

3:リラックスする製品を使う

いくつかの薬やサプリメントは来院前に飲ませることで、猫の不安を軽減させることが知られています。フェリウェイやジルケーンなどは病院を介さずに購入できます。フェリウェイというのは猫のフェイシャルフェロモン(頬などから出ているフェロモン)に似た物質を生成したものです。スプレー状のものを、キャリーに入れるタオルなどに吹きかけると、猫の不安を軽くすることができます。ジルケーンはミルクプロテインのサプリメントで、経口投与します。

より効果のしっかりしたものとして、いくつかの薬が猫で使用されています。代表的なのはガバペンチンという薬で、これは神経伝達物質であるGABAの増強作用があり、複数の論文で抗不安効果が認められています。ただし薬になりますので、動物病院で処方してもらう必要があります。腎臓病を患っていると量を調整する必要があるなど、注意事項がありますので、必ず獣医師と相談して使用してください。

動物病院にはどのくらいで行く必要があるの?

健康な状態だとしても、10歳未満は年に1回、10歳以上は年に2回の健康チェックが推奨されています。
子猫の方が慣れやすいので、将来病院嫌いにならないよう、動物病院に定期的に通うプログラムが、ねこ医学会から啓発されています。「こねこフレンドリープログラム」といって、月1回、10ヶ月齢まで病院に通います。これはワクチンや避妊去勢手術などがある時はそのタイミングで、特に予定がなくても身体検査や爪切りの練習などで、月1回は病院に行きます。その時にトリーツをあげて、病院=怖い場所ではない、ということを覚えてもらいます。

どうしても病院に行けない猫の対処法

これらの対策を実施しても、どうしても病院に連れて行けない猫は存在します。強引に慣らそうとしても、関係性が悪化しますので絶対に無理に捕まえたりするのはやめましょう。
その場合は私の病院では飼い主さんだけきてもらって、症状を伺ったり、便や尿を持参してもらってできる範囲の検査をしています。
また往診という選択肢もあります。近年は往診を専門にしている動物病院も増えてきましたので、一度相談してみても良いでしょう。ただし往診でも捕獲ができない可能性があるので、猫の性格と状況を伝えた上で往診の相談をしましょう。

まとめ

病院での怖い思い出が原因のこともあります。できるだけキャットフレンドリーな病院を選ぶというのも大事かと思います。
今回のポイントの中で、1番簡単に実施できることは1の“キャリーを入れやすいものにする”です。病院で怒ってしまう猫もキャリーを変えただけでスムーズに検査ができることもあります。特に下半分が使えるキャリーは、中にタオルを入れておくとそのまま包んで検査ができるので、獣医師としてもとても助かります。
「こねこフレンドリープログラム」は最近始まりましたが、一定の効果が認められています。愛猫が10ヶ月齢以下であれば参加してみても良いでしょう。

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山本先生もっと知りたい“猫”のこと

山本宗伸先生プロフィール

猫専門病院『Tokyo Cat Specialists』院長・獣医師
授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで猫の魅力にはまり、獣医師になることを決意。獣医学生時代から猫医療の知識習得に力を注ぐ。都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。著書「猫のギモン!ネコペディア」。国際猫学会ISFM所属。日本大学獣医学科外科学研究室卒。ブログ『猫ペディア』https://nekopedia.jp/