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もっと知りたい“猫”のこと|第38回

猫の歯周病について

猫の歯周病とは?

歯周病について猫と人との一番の違いは、歯が汚くなくても猫は歯周病になることがある、という点です。これは「猫の若齢性歯肉口内炎」と呼ばれますが、その名の通り若い猫で発症する病気です。
若齢性歯肉口内炎は免疫が発症に関与していると考えられており、自分の歯に対して免疫細胞が炎症を起こし痛みを発生させます。その原因は生まれつきの体質だけでなく、猫エイズウィルスなどの感染症になっていると発症しやすい傾向にあります。
もちろん所謂デンタルケアを怠った結果おこる歯周病にも猫もなりますが、これは日々のデンタルケアを行うことである程度予防できます。

猫は歯周病リスクが高いのか?

上記の若齢性歯肉口内炎とは別に猫独特の病気として「吸収病巣」があります。この病気は文字通り歯が溶けてしまう病気ですが、3歳以上の猫の50%に認められているというデータがあります。この吸収病巣も歯周病の原因になりますので、猫は歯周病になるリスクが高いといえるでしょう。

進行するとどうなるか?

歯肉組織の炎症を歯肉炎、歯肉だけでなく歯周靱帯などの周囲組織に炎症が進んだ状態を歯周炎と呼びます。歯肉炎は治療すれば戻る可能性がありますが、歯周炎は戻らないとされています。そのため歯周炎になる前に治療をすることが重要です。

左:歯石がついた状態、右:歯石を除去。根分岐部をプローブが貫通している

歯周炎が重度になると、その歯を治療することは難しく抜歯が適応になってしまいます。例えば添付写真のように、歯の根っこ(根分岐部)に棒状のもの(=プローブ)を入れて反対側まで貫通していると、それはグレード3/3の歯周炎と判断され抜歯の適応になります。

歯周病チェックと予防

チェック方法:
口を開き、歯肉と歯を目視するのがチェック方法になりますが、実際に猫の口を観察するのは簡単ではありません。無理に口を開けると噛まれたり、猫が怪我をする危険性があります。また歯肉の赤さも見慣れていないと、病的なものなのか、正常なのか判断は難しいと思います。そのため原則的には動物病院で診察を受けることを推奨します。
もし病院に連れていくのが難しい場合は、口の写真や動画を撮ってみてもらっても良いと思います。

予防方法:
最大の予防は歯に歯垢や歯石がつかないようブラッシングをすることです。猫用の歯ブラシまたはデンタルシート(指に巻きつけて使用する布状のケア用品)が市販されていますので、それらを使用しましょう。ポイントとしては歯だけでなく、歯と歯肉のポケットを磨くこと、そして1番歯石がつきやすい上の奥歯(上顎臼歯)を特にきれいにすると良いでしょう。

(歯ブラシは歯に対して45°の角度をつけて小刻みに動かします。力はそんなにかける必要はありません。歯と歯茎の間(歯肉溝)に溜まった歯垢を搔き出すイメージで磨きましょう。
猫の歯で一番歯石ができやすい場所は上顎の奥歯(臼歯)です。歯ブラシを始めたときは間違った方法で歯茎を傷つけていないか、定期的に動物病院でチェックしましょう。)

理想的には毎日した方が良いですが、難しければ週2〜3回でも効果はありますので、可能な範囲で続けましょう。

どうしても歯磨きが難しい場合は、歯石がつきにくいフード(t/dなど)やサプリメントがありますので、それらを使用すると良いでしょう。歯ブラシほどの効果は望めませんが、何もしないよりは歯垢がつきにくくなります。

最後に

猫の歯周病は腎臓病の発症率を高めるという報告があります。腎臓病は5歳位以上の猫の死因で第1位です。そのため歯周病予防は腎臓病予防にもなり、結果的に猫の健康寿命を伸ばすことに繋がります。実際には猫の歯磨きは難しいですが、できる性格の猫であれば是非やってあげると良いでしょう。
また愛猫の口臭が強かったり、口を触るのを嫌がるなど、歯周病の疑いがある場合は、すぐに病院に連れて行きましょう。人もそうですが、歯の痛みは食欲不振にもなり、生活の質(QOL)を著しく下げます。歯周病の治療をした途端、機嫌が良くなったり、食欲が倍増する猫をしばしば経験しています。

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山本宗伸先生プロフィール

猫専門病院『Tokyo Cat Specialists』院長・獣医師
授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで猫の魅力にはまり、獣医師になることを決意。獣医学生時代から猫医療の知識習得に力を注ぐ。都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。著書「猫のギモン!ネコペディア」。国際猫学会ISFM所属。日本大学獣医学科外科学研究室卒。ブログ『猫ペディア』https://nekopedia.jp/