知りたい

プロが語るお役立ち記事

もっと知りたい“猫”のこと|第31回

猫の健康診断

人医療でも健康診断の重要性が説かれています。多くの病気が早期に発見することで治療可能であったり、進行を遅らせたりすることができるからです。これは猫でも同じです。人は人間ドックやがん検診などの種類がありますが、猫はどのようなことができるのでしょうか。

元気な猫でも健康診断を受けるべきか?

元気な猫でも受けた方が良いと思います。前提として元気な状態で受けるのが健康診断です。
多くの病気は初期では症状を示しません。代表的な疾患として猫の慢性腎臓病はステージ1〜4までありますが、ステージ3以上にならないとほとんど症状が出ません。そして低いステージで診断した方が、寿命が長くなります。
そのため一見元気に見える時から健康診断を受けることが大切です。

何歳から健康診断を受けた方が良いか?

猫のライフステージを、子猫期、成猫期、ミドル期、シニア期に分けることができます。各ライフステージで発症しやすい病気が異なり、アメリカ猫臨床協会(AAFP)のガイドラインではどの年齢でも1年に1度は健康診断を受けることが推奨されています。

ただ人間でも35歳以上は健康保険で健康診断が安くなったりしますよね。それは当然病気が増えてくる年齢だからです。
猫では7歳が1つの目安になります。7歳は人間換算で44歳ですが、ライフステージとしてはミドル期になりがんを含めて様々な病気が出てきます。
そのため原則としてどの年齢でも年1回は受けた方が良いですが、7歳以上は健康診断を受けることを強く推奨します。

検査の時期におすすめはありますか、と聞かれることがありますが、特にありません。強いて言えば4〜5月は犬のフィラリア予防で動物病院の繁忙期なので避けた方が良いかもしれません。また誕生日にやるなど決めておくと忘れにくいでしょう。

どんな検査をするのか?

(AAHA/AAFP Feline Life Stage Guidelines 2021を一部改変)

体重、体温などの身体検査に加えて、前述のアメリカ猫臨床協会(AAFP)のガイドラインでは表のような検査内容をミニマムデータベースとして提案しています。
ミニマムデータベースとは健康状態を把握するために最低限の必要な情報です。レントゲン検査、超音波検査は入っていませんが、アメリカは超音波検査機器を設置してない動物病院が多いことが影響していると考えられます。
あくまでこれは最低限であり、予算が合えば画像検査も含めて良いと思います。

どんな結果がわかるのか?

  • 血液検査
    臓器の機能や障害、そして赤血球数、白血球数などを調べることができます。特に肝臓と腎臓の異常、貧血などを見つけるのに有用です。猫は腎臓病が多いこともあり必須の検査です。
  • 尿検査
    猫では特に診断価値の高い検査です。猫で多い腎臓病、糖尿病、尿路結石、膀胱炎などを見つけるのに有用です。
  • 甲状腺ホルモン検査
    代謝が上がりすぎてしまう病気、甲状腺機能亢進症のための検査です。猫の甲状腺機能亢進症は10歳以上で発症しやすく、性別による発症率の差はありません。
  • 血圧測定
    猫も年齢が上がるにつれて高血圧になりやすくなります。人間のように腕に小型のカフを巻いて血圧を測定します。高血圧を放っておくと網膜にダメージが与えられ、失明することもあります。
  • ウィルス検査
    ここでは猫エイズウィルス、猫白血病ウィルスの検査を示します。この2つは他の猫と喧嘩をするなど強く接触しないと感染しないため、室内飼育で新たに感染することはほとんどありません。
  • 便検査
    便の状態を把握し、適正な固さか、また寄生虫の有無について調べることができます。
  • 超音波検査
    心臓超音波では心筋症が見つかることが多いです。メインクーンやラグドールは心筋症になりやすいことがわかっています。腹部超音波では尿路結石、そして各臓器のがんができてないか確認するのに有用です。
  • レントゲン検査
    超音波では苦手な肺の状態を評価するのに有用です。それ以外にも骨の異常や関節炎の有無を調べることができます。

検査にかかる時間はアメリカ猫臨床協会(AAFP)の表のであれば30分ほどで実施可能です。画像検査を加えると+30分または、預けて検査することもあります。
尿と便は自宅で採取することもできますし、病院で採取することもあります。いずれもかかりつけの病院に確認しましょう。

まとめ

実際に健康診断で病気が見つかることは多いです。稀なケースですが、身体検査で舌にがんができていて早期に切除したことで命が助かったこともあります。猫が病院嫌いで連れて行けない場合でも、尿と便だけを自宅で採って検査することも可能です。
どこまで検査するかは、猫の年齢、品種、予算、検査ストレスなどから総合的に判断する必要があるため、かかりつけの獣医師としっかり相談して決めましょう。

参考資料:AAHA/AAFP Feline Life Stage Guidelines 2021

特別企画
ブログで話題の猫専門獣医師

山本先生もっと知りたい“猫”のこと

山本宗伸先生プロフィール

猫専門病院『Tokyo Cat Specialists』院長・獣医師
授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで猫の魅力にはまり、獣医師になることを決意。獣医学生時代から猫医療の知識習得に力を注ぐ。都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。著書「猫のギモン!ネコペディア」。国際猫学会ISFM所属。日本大学獣医学科外科学研究室卒。ブログ『猫ペディア』https://nekopedia.jp/