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もっと知りたい“猫”のこと|第30回

猫の骨折

猫は犬と比べると骨折することは少ないですが、それでも年に2〜3例は骨折の猫が受診します。以前は交通事故や屋根からの落下などが骨折の原因として多かったのですが、近年は室内飼育の猫が増えたことで、そういったケースは減ってきています。
今回は猫が骨折しやすい部位、骨折しないように注意するべき点などを解説します。

骨折の症状

折れた部位の痛みと、歩き方がおかしくなるという症状が最も多いです。ただし完全に折れていないヒビが入った状態や、骨盤の骨折などの場合、歩き方は普通のこともあります。猫は単独で生活する動物のため、弱った姿を見せないように怪我を隠す習性があるといわれているからです。

骨折の原因

最も多いのは落下です。ベランダ、キャットタワーなどから落ちないように気をつけましょう。通常猫は2mぐらいの高さであれば怪我をせずに降りることができますが、降りるときに爪がひっかかったり、着地した場所に布があり滑ったりすると、それほど高くない場所からの落下でも骨折してしまうことがあります。
それ以外には「扉や重いものに挟まった」「痙攣発作中に強い力が加わった」などで骨折した猫も経験しています。高齢猫は骨が弱くなっているため、小さな段差や外傷で折れてしまうのでより注意しましょう。

骨折になりやすい品種はいるのか

特に骨折しやすい猫種というのはいません。ただし、運動量が多い猫種(アビシニアン、シンガプーラ、ベンガルなど)やオス猫は活発なので怪我をしやすく、より注意したほうがいいかもしれません。

骨折したときに対症療法、治療方法

骨折が疑われた場合はできるだけ早く動物病院を受診しましょう。すぐに病院に連れて行けない場合は、ケージレストといって、ケージや大きめのキャリーの中に入れて運動ができないようにしましょう。
治療方法としては手術が必要な場合と、ギプスなどの固定だけで治癒する方法があります。手術が必要か否かは骨折部位と、どれぐらい損傷が大きいかによって判断されます。

ケース1 中手骨の骨折

中手骨というのは手首と指の間の骨です。猫の中手骨は割り箸ぐらいの太さしかないため、非常に折れやすい骨です。このケースではキッチンから降りた後に足を痛めたかもしれないと来院し、小指の中手骨が折れていました(赤矢印)。他の指の中手骨が正常なこと、変形が最小限のため、手術をしないでギプスで治療することができました。
骨折が治療するまでにかかる期間は部位と損傷度にもよりますが、一般的に骨がくっつくまで4〜6週間、ギプスや行動制限が取れるまで2〜3ヶ月程度です。この猫は2ヶ月でギプスを外して、治療終了としました。

ケース2 脛骨の骨折

脛骨というのはいわゆるスネの骨です。このケースは3段ケージの中で暴れて落下したかもしれないと来院し、左後脚の脛骨が折れていました。体重がかかる部位であり、さらに骨がさらにズレる危険性があったため、手術で治療しました。術後4週間は完全なケージレストを行い、骨がくっついたことを確認し2ヶ月で治癒したと判断しました。

骨折しないための予防方法

まず猫が落下する可能性がある場所がないか室内環境を見直しましょう。マンションで飼っている場合は、窓やベランダから絶対に外に出ないようにしましょう。またそれほど高くない場所からの落下で骨折するケースは、飛び降りる場所で滑る、爪が引っかかる、もしくは着地した場所で滑るケースが多いです。
例えば着地した場所に新聞紙が落ちていたりすると、滑って変な方向に力がかかってしまいます。このような事故が起きないよう日頃から布や紙を置きっぱなしにしないようにしましょう。
栄養面ではキャットフードを与えている限り、カルシウムが不足したり、骨が弱くなることはありません。ただ骨折した猫を振り返ってみると、大型の猫、肥満の猫が多いです。やはり体重が大きいと着地時に強い力がかかるので折れやすいと考えられます。適正な体重を維持することは骨折の予防にもなります。

まとめ

猫は骨折していても我慢して普通に歩くことがありますので、落下したり力が加わった時は動物病院に受診することをおすすめします。手術の選択肢や難易度も変わってきますので、早期に発見することが猫の負担を減らすことにつながります。
骨折の痛みがなくなると、猫は元気に走ったりジャンプするようになります。完全に治癒していない骨は折れやすいため、手術が終わってからも気を抜かずに行動制限を徹底しましょう。日頃から怪我をしそうな場所がないか、脱走できる場所がないかを確認し、怪我しにくい室内環境を整えてあげましょう。

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山本先生もっと知りたい“猫”のこと

山本宗伸先生プロフィール

猫専門病院『Tokyo Cat Specialists』院長・獣医師
授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで猫の魅力にはまり、獣医師になることを決意。獣医学生時代から猫医療の知識習得に力を注ぐ。都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。著書「猫のギモン!ネコペディア」。国際猫学会ISFM所属。日本大学獣医学科外科学研究室卒。ブログ『猫ペディア』https://nekopedia.jp/