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もっと知りたい“猫”のこと|第28回

猫の分離不安症

分離不安とは猫が愛着を感じている人と離れた時に生じる、苦痛を伴ったストレス反応のことです。どんな猫でも1匹になると多少のストレスは感じますが、それによりトイレ以外で尿をする、過剰に鳴き続ける、室内を荒らす、過剰なグルーミングで脱毛してしまうなどの問題が生じると分離不安症と呼ばれます。性別では去勢した雄に多いという報告があります。

分離不安症の原因

考えられる原因としては生活上のストレス(引越し、騒音など)、飼い主不在の時間が長い、新しい猫が来た、もしくは仲の良かった猫が亡くなったなどが挙げられます。
多くが5歳までに症状を示すため、生まれもった性格的なものも大きいと考えられます。

分離不安症が出たときにどうすればよいのか

まずは住環境を見直し、猫にとって快適な空間づくりをしましょう。以下の項目は国際猫学会(ISFM)が提唱している猫の環境づくりのための5本柱です。

  1. 安全かつ安心できる場所を用意すること

    各々の猫がプライベートで過ごせるスペース、静かで人の出入りが少ない空間、高い場所に登れるような台やキャットタワーを用意するなど

  2. 猫にとって必要な備品

    トイレ、フード、水飲み場、爪研ぎ、おもちゃ、寝床)を複数準備し、それぞれ場所を離して設置すること

  3. 遊びや捕食行動のできる機会を設ける

    おもちゃで遊ぶ、フードを投げて獲物を追いかける動きを促すなど

  4. 人と猫の良好な関係

    多くの人が出入りしすぎない、過度なコミュニケーションを取らない、猫が飼い主さんに乗っかる場合は付き合ってあげる、適度な力で撫でてあげる、など

  5. 猫の嗅覚の重要性を尊重した環境を用意すること

    猫が嫌がる匂い、柑橘系の洗剤や強い香水、を使用しない。猫が顎などを擦り付けてマーキングした場所を拭き取らない、猫や飼い主の匂いがついたタオルを置いておく、トイレを清潔に保つ、など

それでも良くならない場合は動物病院へ

住環境を見直して改善がみられない場合は行動学的なアプローチが必要になりますので、動物病院を受診しましょう。
最近では行動学を専門とする獣医師も増えています。専門医の診察は紹介が必要なることが多いので、希望する場合はかかりつけの獣医師に相談してみましょう。

どんな治療法があるのか

行動修正法

飼い主の外出という猫にとって好ましくないイベントに対して、おやつを与えるなどをすると「飼い主の外出=おいしいものがもらえる」と関連づける(拮抗条件づけ)方法だったり、短い時間の外出から徐々に慣らしていく(系統的脱感作)方法などを用います。
これらは犬の分離不安で行われる治療法で、犬ほど有効ではないものの一部の猫に対して有効であると考えられています。

薬物療法

薬を使うことで、不安を和らげ、行動修正をやりやすくしたり、飼い主への依存度を改善したります。
薬物療法は効果が得られるまで1〜2ヶ月はかかりますので、効果の判定には時間が必要です。薬の種類によっては眠くなりすぎる、トイレの回数が減るなどの副作用もあるので、よく獣医師と相談してから使用しましょう。

まとめ

分離不安にならないためには上記の5本柱を遵守し、猫にとっても好ましい環境や人と猫の関係を構築することが大切です。ただし、どれだけ気をつけても性格的に分離不安症になってしまうことはありますので、その場合は獣医師の力を借りましょう。
最近では、テレワークの間は一緒にいる時間が長かったものの、通勤に戻って留守番が増えたときに分離不安を感じる猫が増えているように感じます。働き方は自分の意思だけでは選べないかも知れませんが、通勤に戻っても家にいる時間はたくさんかまってあげるなど猫の気持ちを満たしてあげると良いでしょう。

参考資料
・猫の治療ガイド2020. EDUWARD Press

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山本先生もっと知りたい“猫”のこと

山本宗伸先生プロフィール

猫専門病院『Tokyo Cat Specialists』院長・獣医師
授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで猫の魅力にはまり、獣医師になることを決意。獣医学生時代から猫医療の知識習得に力を注ぐ。都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。著書「猫のギモン!ネコペディア」。国際猫学会ISFM所属。日本大学獣医学科外科学研究室卒。ブログ『猫ペディア』https://nekopedia.jp/