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もっと知りたい“猫”のこと|第24回

こんな症状が出たら要注意② 〜猫のウィルス感染症〜

外の気温も一段と寒くなってきました。冬は感染症が増える時期です。そもそもなぜ冬になると感染症が多くなるのでしょうか。
1つ目の理由は気温と湿度が関係していると考えられています。種類にもよりますが、ウィルスは16度以下、湿度40%以下を好みます。この環境ではウィルスは空中に浮遊しやすく、また生存期間も長くなるため感染が広がりやすくなります。
2つ目の理由は免疫力の低下です。寒くなると鼻や喉の粘膜の働きが弱くなってしまい、体内に侵入しやすくなります。
ただし、猫には人インフルエンザウィルスのように、季節によって顕著に感染が蔓延するウィルスはありません。それでも冬季は免疫力が下がり、猫も風邪症状が悪化することはしばしばみられます。
今回は猫の代表的なウィルス感染症について解説します。

猫ヘルペスウィルス感染症

別名、猫ウィルス性鼻気管炎と呼ばれるように、くしゃみや鼻水、発熱などの症状が特徴です。それに加えて結膜炎、角膜炎など目に症状が出ることもあります。
PCR検査を行い鼻や目の分泌物を採取し診断します。多くの猫は回復後、生涯ウィルスキャリア(潜伏感染)になるため、ストレスがかかったり冬場に免疫力が下がったりするとウィルスが再活性し、症状がぶり返します。
特効薬はなく、生涯にわたって症状が出るため”思いやりのあるケア”が必要になります。
鼻が詰まると食が細くなるため、温めたり細かく刻んであげたりすると良いでしょう。鼻詰まりを軽減するためにネブライザー(薬剤を霧状にして直接鼻に送る治療方法)を行うこともあります。

猫カリシウィルス感染症

猫ヘルペスウィルスのように鼻炎やくしゃみもありますが、それに加えて発熱、口内炎が強く出ることが特徴です。子猫で口の中を痛がったり、歯肉や舌が赤かったりする場合はこのウィルスの感染が疑われます。
PCR検査を行い、鼻や目の分泌物に加えて口腔内の拭い液を採取して診断します。
治療としては、特効薬はなく、口を痛がる猫に対しては食事を補助したり、脱水しないよう点滴を行うことなどに限られます。猫用インターフェロン(抗ウィルス作用のたんぱく質)の注射が回復を早める効果が認められています。
猫ヘルペスウィルスのようにウィルスキャリアになり、回復後に症状がぶり返すこともあります。

猫パルボウィルス感染症

消化管で増幅するウィルスのため、激しい下痢が特徴的です。それ以外にも貧血、脱水、運動失調(真っ直ぐ歩けないなど)などの症状があげられます。
子猫が感染すると死亡する可能性が高く、今回の3つのウィルスの中で最も危険です。
診断は便を用いた診断キット、もしくはPCR検査で行います。
こちらのウィルスも特効薬はなく、回復に献身的な介護が必要です。猫パルボウィルスは自然環境で数ヶ月間感染力を維持する可能性があり、靴や衣類を介して室内飼育の猫にも感染する危険性があります。

まとめ

これらのウィルス感染症は非常に厄介ですが、いずれもワクチンで予防ができます。猫パルボウィルスのように外に出なくても感染する危険性があるので、完全室内飼育の猫でも必ず定期的にワクチンを接種しましょう。それ以外には外から持ち込んだウィルスと接触しないよう、帰ったら手洗いを徹底する、玄関周りに猫を近づけないなどの対策をしましょう。猫でも使える抗ウィルス薬というのはほとんどありません。感染しないことが対策になります。
子猫で鼻炎や口内炎、下痢などの症状が出た場合、これらの感染症が疑われますので、早めに動物病院で相談しましょう。

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山本宗伸先生プロフィール

猫専門病院『Tokyo Cat Specialists』院長・獣医師
授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで猫の魅力にはまり、獣医師になることを決意。獣医学生時代から猫医療の知識習得に力を注ぐ。都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。著書「猫のギモン!ネコペディア」。国際猫学会ISFM所属。日本大学獣医学科外科学研究室卒。ブログ『猫ペディア』https://nekopedia.jp/