知りたい

プロが語るお役立ち記事

もっと知りたい“猫”のこと|第20回

猫の感染症 ノミ・ダニ編

初夏になると虫が増えてきますが、猫に感染する寄生虫もいるので注意しましょう。
寄生虫にはサナダムシのように体の中に寄生する内部寄生虫と、ダニやノミなどの皮膚や被毛に寄生する外部寄生虫の2パターンがいます。今回は猫の外部寄生虫について解説します。
寄生虫は室内飼育だから感染しないのでは?と思う飼い主さんも多いでしょう。しかし当院にも毎年数匹は完全室内飼育でも外部寄生虫に感染した猫が来院しています。おそらくベランダなどから入った、同居動物が外から持ってきた、もしくは飼い主さんに付着して室内に侵入しているのでしょう。

ノミ

猫に感染するノミはネコノミ(Cutenocephalides felis felis)という種類で、猫に感染するノミの97%がこのネコノミです。
それ以外にもイヌノミという種類もいますが、症状や治療方法は同じです。
症状としては痒みですが、感染数が多い場合は血を吸われすぎて貧血になることもあり、子猫だと重症化することもあるので決して侮れません。前述のサナダムシもノミを介して猫に感染します。
またノミアレルギー性皮膚炎といって、ノミの唾液にアレルギー反応を起こすことで広範囲に強い痒みと赤みが出ることがあります。

ダニ

ニキビダニ、疥癬、ツメダニ、耳ヒゼンダニなどの種類があります。ダニはノミよりも小さいので肉眼では確認できません。この中で強い症状を示すのは疥癬で全身の脱毛を起こすこともあります。これは人間にも感染するので注意しましょう。
比較的よくみられるダニとしては耳ヒゼンダニがあげられます。名前の通り耳の中に感染し、黒い耳垢と痒みが特徴です。ペットショップやブリーダーからもらってきたばかりの子猫に感染していることが多いです。

マダニ

ダニと似ていますが、マダニは肉眼でも確認できるほど大型のダニです。通常は全長3mmほどですが、血を吸った状態では1cmほどまでに膨れます。
マダニは国内でも死亡例がある血小板減少症候群(SFTS)や日本紅斑熱などを媒介するため危険な外部寄生虫です。人のSFTSの発症例は地域によって異なり九州、西日本が中心です。2019年に東京でもSFTSの患者が報告されましたが、長崎で感染したと考えられています。
マダニは郊外の山や草むらにいる虫ですが、広い公園や河川敷にも潜んでいます。都市部ではノミやダニに比べると、遭遇率は低いですが、危険性が高いという意味では必ず知っておいてほしい外部寄生虫です。

治療

複数の外部寄生虫に効果がある駆虫薬が開発されています。虫の種類、猫の年齢、体重、効果が出るまでの時間、持続期間などを考慮し獣医師が処方します。
現在は液剤タイプが主流で首元に滴下するだけで投与できます。またペットショップで購入できる市販薬の中に駆虫ではなく「忌避剤」といって、虫を近づけない効果しかないものもあるので注意してください。
外部寄生虫感染は正しい薬を使えば基本的に治療可能な病気です。

まとめ

完全室内飼育の猫であっても外部寄生虫に感染する可能性はあります。予防方法としては低層階にお住みの方は網戸越しに入ってくることがあるので、猫を近づけない、また外で草むらに入ったり猫を触ったりした時は手洗いをし、洋服を着替える。犬を一緒に飼っている場合は愛犬の駆虫予防をしっかりしましょう。

参考資料:犬と猫の治療ガイド2015 interzoo

特別企画
ブログで話題の猫専門獣医師

山本先生もっと知りたい“猫”のこと

山本宗伸先生プロフィール

猫専門病院『Tokyo Cat Specialists』院長・獣医師
授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで猫の魅力にはまり、獣医師になることを決意。獣医学生時代から猫医療の知識習得に力を注ぐ。都内猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。著書「猫のギモン!ネコペディア」。国際猫学会ISFM所属。日本大学獣医学科外科学研究室卒。ブログ『猫ペディア』https://nekopedia.jp/