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「わが子の老後」を想像する|第2回

データで予測するわが子の老後:猫編

私のような昭和世代からすると、人とペットの距離感はずいぶん縮まったように感じます。
特に飼い猫はもっと自由で孤高な存在でした。
サザエさん一家のタマのように気ままにお出かけする「半野良」スタイルが普通で、帰ってこなくなれば寿命を迎えたか、よそで幸せに暮らしているかと想像する他なかったものです。

さて、平成以降の常識は「室内飼い」です。
屋外での事故・病気といった死亡リスクが減った猫の飼育期間はとても長いものとなり、その老後も飼い主の責任において見守るものへと様変わりしました。

今回は、かつてはベールに包まれていた「猫の老後」について、終生飼養の観点から考えてみたいと思います。

「老い方上手」な猫

前回は犬について、老後の要介護化が飼育破綻の原因になることをお話ししました。
それでは猫の場合はどうでしょうか?

結論から言って、一般に猫は飼育破綻するほどの要介護にはなりません。私の老猫ホームで何カ月も介護が必要だったのは、これまでに見送った60頭余りの内5頭程度、それも老化ではなく病気や障害によるケースばかりでした。

もちろん猫も年を取れば足腰が弱ったり、認知症により夜鳴きや徘徊を始める子もいますが、それでも犬のように立てなくなるほどの老化は見られません。寝たきりになって下の世話や強制給餌のような「看取り介護」をするのもほとんどは最期の数日だけ。

家族にさえ自分の病気を隠す猫の習性も介護期間の短さに関係しているのでしょう。個人的には、少しは介護させてくれると亡くなった時の唐突感や喪失感が和らぐのですが…。
老い方としては猫本人の理想通りなのかもしれません。

長患いが大変になる3つのポイント

不調を隠してしまう猫ですが、そのためか飼い主が病気と向き合う期間も犬より短い傾向で、これも「終生飼養」の観点からは利点といえるでしょう。しかし病気を見つけてあげられたときは、当然治療のためにそれなりの負担が生じます。

例えば、シニア猫の代表的な長患いといえば腎不全。脱水症状緩和のために長期間、毎日のような皮下点滴が必要になるかもしれません。
このとき点滴のたびに病院に通うことはあまり現実的ではありません。第一に「通院による猫のストレス」、そして飼い主の「出費」と「通院にかかる時間」のやり繰りが日を追って負荷を増すからです。

ところが、獣医師の指導による自宅での皮下注射を勧められた場合でも、「わが子を押さえつけて針で刺したくない」と病院での処置に頼り続ける飼い主も多いのが現状です。

腎不全のような慢性疾患との付き合いにゴールは見えません。通院生活で猫と共に疲弊することになっては本末転倒。
わが子の病気と長く付き合うためにも、できるケアは自宅でしていく意識も必要になります。

ポイント
  • 猫は犬にくらべ要介護化する例が少なく、老後も飼いやすいと言えるでしょう。
  • 「猫のストレス」「出費」「通院時間」、継続治療のためにはこの3つの軽減を意識しましょう。

飼えなくなるパターンは「人の高齢化」+「猫の長寿化」

ここまで見たように猫はおおむね「ピンピンコロリ」タイプなので、介護や看護が大変で飼育破綻するという例もほとんど聞きません。にもかかわらず、私の元へは毎週のように「猫が飼えなくなった」という相談が寄せられているのです。
その理由は次の通り、多くは高齢飼い主からの相談です。

聞き取り結果からは人間の高齢化に関係する理由(赤字)ばかりが目につき、飼えなくなる原因を猫側に見出すことはほとんどできません。しかし同時に高齢者のみなさんが口をそろえるのが「猫は10年くらいと思っていた」という感想です。

室内飼育された猫の平均寿命は10才どころか16才と発表されていますが、上の年代の方ほど現代猫の寿命について認知のギャップが認められます。

つまり、「猫の寿命を読み違えたため自分が先に参ってしまった」という飼育破綻が最も典型的なのです。

私の老猫ホームに寄せられる相談のほとんどは無責任な飼育放棄ではなく、自身の健康が悪化してもなお共倒れになるまで頑張ろうとした結果のもの。しかしそんな愛情と責任感を持った方にも足りなかったものがあるとすれば、それはやはり猫の長寿化に対する認識なのではないでしょうか。

愛猫を最後まで見守るために

前回犬編で、「飼育期間の予測は平均値ではなく最大値で」とお話ししましたが、猫は平均寿命と最大寿命(生理的限界寿命)が犬よりも甚だしく乖離します。
長寿世界一は38才(!)。2005年、アメリカの猫の記録です。また、最近は東大チームが猫の腎機能を改善する遺伝子「AIM」を発見。これを使った治療薬が完成すると、腎不全を克服した猫の寿命は30年にも延びるという、なんとも夢のあるニュースが話題になりました。これらはあくまでポテンシャルの話ですが、猫の寿命にはさらに伸びしろがありそうですね。

現実的には、私のホームで看取った最高齢は24才が3頭。ある大手ペット保険会社の長寿ネコ表彰は5年連続で23才が最高齢なのだそうです。23~24才を最大値と考えて良さそうですが、これは平均寿命の16年に対し実に1.5倍の期間となります。

定年後に仔猫を迎えた人なら、平均寿命を超えるまでお世話が続けられるでしょうか?若い世代の方にとってもほぼ四半世紀という長い年月、生活環境の変化は予測が難しいのではないでしょうか?
愛猫が長寿表彰を受ける頃には自分の健康や家庭環境がどう変わっているのか、ネガティブな変化も含めて想像することが、わが子を見守る第一歩となるはずです。

最後に、私が受けてきた飼育困難相談を元にチェックリストを作成しました。愛猫の終生飼養のためにご活用ください。

ポイント
  • 途中で飼えなくなる人は高齢者と単身者に多いですが、その理由のほとんどに猫の長寿化というファクターが絡んでいます。
  • 猫の飼育期間を10~15年くらいと考える飼い主は認識のアップデートが必要。
    猫生30年時代の到来に備えて、飼育を引き継いでくれる存在も重要です。

まとめ

猫が室内飼いによって健康寿命を保ったまま長生きになっているのはうれしい変化です。
しかしこのことは、将来老いた愛猫だけが取り残されるという悲劇の伏線になりかねません。
昔は自由で孤高と思われていた猫も、ずっと室内で過ごした子は人間への依存心が強まり、飼い主と一緒にいることに幸せを感じる傾向にある事が分かってきたのだそうです。
そんな愛猫を四半世紀、最後まで見守りつづける心構えを、令和の飼い方には求められています。

特別企画

「わが子の老後」を想像する

渡部 帝氏プロフィール

老犬老猫ホーム東京ペットホーム 代表
一般社団法人老犬ホーム協会 副会長
元工務店経営者

平成26年、初の都市型老犬老猫ホームとなる「東京ペットホーム(https://tokyo-cathome.com/)」を開業。その後老犬老猫ホームの基準作りを目指す業界団体「老犬ホーム協会」の設立を主導し、平成30年の発足後から副会長を務める。
「飼い主の心に寄り添う」姿勢を信条として年間200件以上の飼育困難相談に無休対応。
特にペットの介護破綻問題に取り組む活動は国内外の多くのメディアが紹介している。