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わが子の将来を考える|第5回

シニア期に向けた猫が暮らしやすい環境づくり

猫が快適に過ごす環境を整えるために必要なことの1つに、「猫を理解する」ということがあります。
猫を飼っている皆さんは、漠然と猫はこういう生き物、というのは理解されているとは思います。
しかし、猫の行動がどういう意味を持っているのかを知っているでしょうか?
今回は、猫の行動の裏にある意味を確認しながら、猫に最適な環境づくりについてみていきましょう。

猫が高いところを好むのは・・・

猫は高いところが好きなので、キャットタワーやキャットウォークを設置されているご家庭も多いのではないでしょうか。
ではなぜ猫は高いところが好きなのでしょう。
それは、猫が野生で暮らしていたころの習性に由来しています。

そもそも猫は小型の肉食動物で、獲物を捕まえて食べると同時に、猫自身が捕食される対象でもありました。
そんな猫が身を隠す場所として選んだのが、木の上などの高い場所です。
また、高い場所から地上を見下ろすことで、獲物となる動物を探したり、天敵を探したりと、都合が良い場所でもあります。

キャットタワーの設置が難しいご家庭では、少し高さのある家具を代用品としてもいいでしょう。
本棚や大小の収納ボックスを組み合わせることで高低差を作ることが可能です。
ポイントは、どちらも上部に休めるクッションやベッドを設置してあげることです。
前述したように、高い所に身を隠すようにすることで猫は安心感を得ることができます。
そんな安心できる場所に、お気に入りのクッションやベッドがあると、よりくつろぐことができるでしょう。
その場合、クッションやベッドがずり落ちないように、きちんと接着することを忘れずに。

問題はシニア期の猫です

運動神経抜群の猫たちですが、シニア期になると筋力の衰えなどによって高い所に登ることが難しくなることがあります。
しかし、そういう時期だからこそ、安心できる高い場所、というのが大事になってきます。
キャットタワーであれば、テーブル(段差)を増設することができるものもありますので、シニア期が近づいてきたらそうしたものに置き換えたり、最初からシニア期を見越して購入してもいいでしょう。

家具の配置で高低差を作っているご家庭では、家具などの配置を階段状になるように模様替えしてみてもいいでしょう。
もしくは、高さの低い家具を1つ2つ新たに加える必要もあるかもしれません。

ただし、どちらの場合も完全にシニア期と呼ばれる時期に入ってからでは、新しいキャットタワーや家具の配置に慣れるまでに時間がかかってしまう可能性があります。
そのため、5,6歳頃から徐々にシニア期に向けた環境づくりにシフトしていくことで、環境の変化に慣らす時間を取ります。

このように猫がくつろげる高い場所は、窓辺に設置するのもいいでしょう。
たっぷりの日差しを浴びながら、外を眺めることで好奇心を満たすことができますので、心身ともに満たされることでしょう。
外への脱走に注意しながら、窓辺でくつろげる空間を用意してみては?

さらに、日常生活の中で意外と負担になってくるのがトイレです。
実は、シニア猫になると前肢が上がりづらくなるためか、トイレを散らかしてしまったり失敗することが増えた、という声が多く聞かれます。

トイレの前にスロープを設置

猫砂をたっぷり入れるため、市販されている猫用トイレは深い造りのものが多く、若いときはよくてもシニアになると出入りが大変になってしまうのです。
そのため、手入れに入りやすいようスロープを用意してあげると出入りがしやすくなります。
これも、急に設置すると警戒してトイレそのものを嫌がるようになってしまう可能性がありますから、6,7歳を過ぎたあたりから様子を見つつ取り入れてみてはどうでしょうか。

猫が狭いところに潜り込むのは・・・

猫が狭いところに潜り込む性質があることも、多くの方が知っていることでしょう。
ではなぜ狭いところが好きなのでしょうか。

その理由は、大きく分けて2つ。

  • ❶ 野生では、狭くて暗い場所というのは、猫の獲物になる小動物が潜んでいることが多く、猫にとって狩猟本能を刺激される空間であるからです。
  • ❷ 高いところに同様に、身を隠すのに最適だからです。特に、入口が狭く奥行がある空間が理想的です。

ですから、キャットタワーの中ほどに、隠れる空間があるものは猫にとって非常に魅力的といえるでしょう。

室内に猫が隠れられる場所を作る場合には、背中側を覆われるような狭い場所を用意すること。
なぜ背中側が覆われているといいのかというと、背中が覆われていれば、後ろから襲われることはなく、入口から前方にだけ注意を向けていればいいので、より落ち着けると考えられています。

市販のキャットドームを用意したり、椅子の下を利用して身を隠すことができる場所を作ってみたり、色々と工夫してみましょう。

そしてもう1つ・・・

高いところから降りても平気な猫ですが、それは、しなやかな筋肉とクッション性のある肉球によって落下の衝撃を和らげているからです。
それでも、関節への負担を完全にゼロにすることはできません。
関節を保護する意味でも、猫が良くいる部屋を中心に、カーペットなどを敷いておくことをお勧めします。

カーペットなどを敷くメリットは他にもあります。
フローリングでは冷気の影響をじかに受けますが、カーペットなどを敷くことで冷気を防ぐことが可能です。
また、元気よく走り回る猫が、フローリングで滑って転んでしまい怪我をする可能性も捨てきれません。
そうしたことを予防するためにも、ぜひカーペットなどを敷くようにしてみてください。

ただ、気をつけてほしいのはカーペットの素材です。
パイル生地といわれるような、繊維を丸くループ状に織ったものだと、爪をひっかけて怪我をしてしまう可能性があります。
カーペットなどを選ぶ際には、生地の状態にも注意するようにしてみてください。

まとめ

今回ご紹介した猫のための環境づくりは、若い猫からシニア期の猫まで幅広く活用できます。
猫は環境の変化に敏感な動物です。
シニア期になってから色々と環境づくりをするのではなく、若い頃からシニア期を視野にいれた環境づくりを行い、慣らしていくことも重要です。
猫が一生を通して暮らしやすくなるよう、出来る範囲で環境を整えていきましょう。

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佐藤 麻衣氏プロフィール

一般社団法人 全日本動物専門教育協会
動物介在福祉士 教師
家庭犬訓練士 教師
SAE認定 犬猫行動アナリスト 専任講師
SAE認定 猫のシニア生活健康アドバイザー 専任講師

長年動物の専門学校で教鞭をとり、犬のトレーニングや動物介在福祉活動などに従事。
現在は専門学校や大学、国内初の官民協働PFI刑務所の職業訓練プログラムに於いてトレーニング技術を教え、一般の飼い主に向けても資格取得に向けた講座やペット防災など様々なセミナーで活躍。
犬のみならず、長年猫と暮らしている経験、猫の生態・習性の知識も併せ持つ。