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わが子の将来を考える|第10回

シニア犬の健康を維持するためのお散歩
~シニア犬のお散歩のポイントとコツ~

最近よく耳にする言葉に、「健康寿命」というものがあります。
この言葉は、2000年にWHO(世界保健機関)が提唱したのが始まりです。
そもそも、健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。
平均寿命と健康寿命との差は、日常生活に制限のある「健康ではない期間」を意味し、2019年において、この差は男性8.73年、女性12.06年でした。

上記はあくまでも人における健康寿命の話ですが、飼っているわんちゃんが、老いても健康で長生きしてほしいのは多くの飼い主の望みでしょう。
では、どのように健康を維持すればいいのでしょうか?

適度な運動が大切

「適度な運動」は何によってもたらされるのでしょう。
それは、きっと今も毎日行われている「お散歩」です。
ドッグランなどで自由に遊ばせると、楽しすぎて体力の限界まで遊んでしまい、疲れすぎてしまう可能性があります。
ドッグスポーツなども同様でしょう。
人がコントロールできて、適度な運動としてできるのが「お散歩」なのです。

お散歩には、衰え始めた筋力を維持したり、運動不足による肥満を予防したりするメリットがあります。
外に連れ出すことで太陽の光を浴び、体内時計が整うとともに、風や匂いが脳に良い刺激を与えてくれます。
適度に運動することによる疲労感により、夜ぐっすり休む、という効果も期待できるでしょう。
体内時計を整え、夜ぐっすり休めるようになると、昼夜逆転生活や夜鳴きの予防にもつながります。

また、筋力が衰えてくると、腸の動きも悪くなり、排泄に影響が出てくることがあります。
お散歩は、そうした腸の動きを活性化させることにもつながります。

お散歩で注意したいこと

お散歩で注意してほしいのは、若い頃と同じ距離、同じ時間では負担になる可能性がある、ということです。
体力が落ちてくると、長い時間の散歩は必要ありません。
一概に年齢で決めることは難しいので、飼われているわんちゃんの体力に応じてお散歩コース、お散歩時間を調整してください。

また、筋力の低下により足腰が弱るため、転倒のリスクが考えられます。
日頃から歩き方をチェックし、足を引きずって歩くようなそぶりがあるときは、まず動物病院で診察を受けること、そして、その後のお散歩については、足の状態、段差の有無、路面の状態などを考慮すると良いでしょう。

シニア犬と一緒に散歩をするポイントやコツとして第一に覚えておいてほしいことは、「愛犬は年老いた」ということです。
子犬の頃、もしくは若い頃から一緒に生活していると、どうしても老いを意識しづらく、また老いから目を逸らしたくなる気持ちもあるでしょう。
その先に待っている別れを意識したくないからです。
しかし、愛犬は、確実に私たち人より早く年老いていくのです。
それまでできていたことができなくなり、これから先もできることが少なくなっていくでしょう。
それが現実です。
まずはその現実を受け止めてほしいのです。
そうすると、自然とシニア犬に合わせた生活スタイルになっていくと思います。

日々のボディチェックも大切

次のポイントは、お散歩に出る前と帰って来た後のボディチェックです。
歩き方のチェックはもちろん、足裏の状態、軽く関節の曲げ伸ばしをしてみて、強張ることがないかどうかなど確認してみると、異常に気がつきやすくなるでしょう。
また、お散歩中に排尿の量や匂い、排便の状態や色、匂いなどもチェックできれば、お腹の調子も知ることができます。

わんちゃんが自力で歩けるうちは、短い距離でも短時間でも、お散歩に連れて行ってあげましょう。
多くのご家庭では、朝と夕方(夜)の2回のお散歩がオーソドックスだと思いますが、シニアになると一回に歩ける距離や時間が短くなりますので、回数を増やすことで運動量をカバーする方法もあります。
ただし、お仕事や学校に行かれていると、難しいかもしれませんね。
そのようなご家庭では、休日に、多めにお散歩の時間を取るようにしてあげてはいかがでしょうか。

無理せず、無理させず、その子のペースで

そして、いよいよ自力では歩くことが難しくなってきた場合。
補助してあげれば何とか歩ける状態であれば、わんちゃん用の介護用品として歩行を補助するハーネスがありますので、そちらを利用してもいいでしょう。
もし、足腰が弱ってきて”つまずき”が多くなってきた場合にも、この補助ハーネスが活用できます。

完全に歩くことができなくなった場合、お散歩に連れて行くのは困難に思えるでしょう。
しかし可能な限り、外に連れて行ってあげてほしいと思います。
わんちゃんは、年老いて視覚や聴覚が衰えても、嗅覚や触覚は残るとされています。
残った機能で外を堪能することは可能なのです。
小型犬であれば、バッグやスリングに入れて、中型、大型犬であれば、ドッグカートなどを利用してのお散歩でも、充分に外を楽しむことは可能です。

私が飼っていた子も17歳で亡くなる直前まで、スリングに入ってのお散歩が日課でした。
もう目も見えておらず、耳もほとんど聞こえていないはずなのに、外に出るとスリングから顔を出して鼻をヒクヒクさせ、日に当たると気持ちよさそうな表情をしていたものです。
無理をせず、そして無理をさせず、その子のペースでお散歩を楽しむ。
それが、シニア期のわんちゃんと一緒にお散歩を楽しむポイントとコツの、最大の秘訣かも知れません。

特別企画

佐藤 麻衣氏プロフィール

一般社団法人 全日本動物専門教育協会
動物介在福祉士 教師
家庭犬訓練士 教師
SAE認定 愛玩動物介護士 専任講師
SAE認定 愛玩動物介護士アドバンス 専任講師
SAE認定 犬の健康生活管理士 専任講師

長年動物の専門学校で教鞭をとり、犬のトレーニングや動物介在福祉活動などに従事。
現在は専門学校や大学、国内初の官民協働PFI刑務所の職業訓練プログラムに於いてトレーニング技術を教え、一般の飼い主に向けても資格取得に向けた講座やペット防災など様々なセミナーで活躍。