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わが子の将来を考える|第1回

データで予測するわが子の老後:わんちゃん編

最期までわが子を見守り続ける「終生飼養」のためには、愛犬のエイジング(老化)を想定しておくこと。
具体的にはわが子の健康や寿命、そして介護の症状や期間についてもリアルなイメージを持っておくことが大切です。
未来予測は自分の事さえ難しいもの。
しかしわが子のライフプランナーは飼い主さんだけなのです。

人生100年時代・犬は20年時代?

第一次ペットブームから30年、犬の平均寿命は2倍以上に伸びました。
まさにペットも高齢化社会です。
そして寿命が伸びた分、病気や介護といった「長生きリスク」と向き合うことにもなりました。
これも人間の高齢化問題と同じですね。
それでは犬の場合、具体的にいつからいつまでが「長生きリスク」の期間なのでしょうか?
特に長寿化が目立つ小型犬の老後について、人間との比較表を作りましたのでご覧ください。

最新の統計によれば小型犬の平均寿命は15才。
「じゃあ15才までお世話できるようにがんばろう。」という考えは大きな誤算の元。
むしろ15才からがお世話の本番だと読み取るべきです。
たとえば人間は平均寿命が80才ですが、すでに80才を迎えた人の平均寿命である「平均余命」を統計すると、さらに10年の「余命」があることがわかります。

犬の平均余命については統計がないので勝手な推測ではありますが、私は平均寿命である15才の犬を預かる際、さらに2~3年(人間でいえば10年ほど)の「余命」を見積もっています。
実際に私のホームでは、15才前後で介護破綻のため入居し、18才前後まで介護し看取るといったケースがとても多く、中には20才近くまで寝たきり生活を生き抜く子もいるのです。

平均寿命=80才を超えた日本人男性は生活自立度が大きく低下しはじめ、90才までには全体の半数以上が要介護認定を受けているというデータがあります。
ペットも高齢化した現在、平均寿命=15才から大変な介護生活が始まる可能性を、そしてその介護が20才まで続く可能性を考えておく必要があるといえるでしょう。

ポイント
  • わが子の寿命は平均値(15才)ではなく最大値(18~20才)を意識して想定しましょう。
  • ハイシニア期(15才~)からは要介護リスクが格段に高まることを知っておきましょう。

犬種による「長生きリスク」

それではシニア・ハイシニアになったわが子を介護することになる確率はどれくらいでしょう?
「何らかの介護が必要になる犬は4頭に1頭」という獣医師の意見もありますが、結論的には「長生きするほど自立度が下がる」という当たり前の事以外わかっていません。
もちろん個体差もあるので、年を取れば介護が必要になると決まっているわけでもありません。
つまり予測が難しいのですが、要介護リスクのヒントは犬種ごとの遺伝的特徴にありそうです。
私のホームでケアした犬種を介護内容別に、それぞれ多かった順に並べてみます。

寝たきりケア 1位:柴犬 2位:ミニチュアダックス 3位:シー・ズー 4位:コーギー 5位:トイプードル
認知症ケア 1位:柴犬 2位:チワワ 3位:シー・ズー 4位:トイプードル 5位:ミニチュアダックス
摂食・排泄ケア 1位:柴犬 2位:ミニチュアシュナウザー 3位:シー・ズー 4位:チワワ 5位:トイプードル
持病管理・通院 1位:ミニチュアダックス 2位:トイプードル 3位:パグ 4位シーズー 5位:チワワ

1位を独占する柴犬ですが、介護の大変さや認知症発症率の高さはすでによく知られています。
しかし飼いはじめの時にこの遺伝的リスクを知らなかった方もいるのではないでしょうか?
認知症により遠吠えのような夜鳴きが始まるとご近所トラブルから介護破綻に直結しやすいので、特に集合住宅の柴犬オーナーさんは充分な心構えが必要です。

他には、胴の長いダックスやコーギーはシニア期(12才~)から後肢麻痺を発症し、足を引き摺って入居してくる子が目立ちます。
麻痺から排尿障害を生じると昼夜圧迫排尿が必要となり、自宅介護は大きな壁に直面します。

チワワ、シーズーなど短頭種はハイシニア(15才~)の頃から脳神経のトラブルでてんかんや認知症を発症する子が多く見られ、見守りのために「介護離職」を選択する人も。

こういった、犬種ごとにプログラムされたリスクは年を重ねるほど顕在化するものです。
わが子の犬種に好発している症状を知って、今から「長生きリスク」に備えましょう。
症状の種類や予防、ケア方法については、次回以降さらに詳しくご紹介します。

ポイント
  • わが子の犬種の遺伝特性を手がかりに、老後の病気や要介護リスクを予測しましょう。
  • 特に夜鳴きや排尿障害など、「介護破綻」につながりやすい症状に注意しましょう。

まとめ

わが子が衰えていくのは誰もが辛く、認めたくないものですが、それは愛犬本人も一緒です。
「12才からは人間でいえば高齢者。眼や足が弱るはずだからから支えてあげよう。」
「15才からは人間の後期高齢者。寝たきりになってもたくさんかまってあげよう。」
こんなふうに想像しておくだけで、わが子の変化をポジティブに受け入れやすくなります。
ホームで預かるわんちゃんはみんな、不自由な体でも目を輝かせながら精一杯生きています。
そんなわんちゃんでも、飼い主さんが老いた自分を見て悲しむのは何よりも辛い事でしょう。
やってくるかもしれない介護の時を明るく迎えるために、わが子の老後をたくさん想像しておきましょう。

次回は「データで予測するわが子の老後:猫編」です。

特別企画

渡部 帝氏プロフィール

老犬老猫ホーム東京ペットホーム 代表
一般社団法人老犬ホーム協会 副会長
元工務店経営者

平成26年、初の都市型老犬老猫ホームとなる「東京ペットホーム(https://tokyo-cathome.com/)」を開業。その後老犬老猫ホームの基準作りを目指す業界団体「老犬ホーム協会」の設立を主導し、平成30年の発足後から副会長を務める。
「飼い主の心に寄り添う」姿勢を信条として年間200件以上の飼育困難相談に無休対応。特にペットの介護破綻問題に取り組む活動は国内外の多くのメディアが紹介している。