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わんわん診察室|第33回

小型犬でよくみられる膝蓋骨脱臼

愛犬がお散歩中に急に後ろ足を挙げて歩く…
そんな歩き方、していませんか?
もしかしたら膝蓋骨脱臼という病気が隠れているかもしれません。
「膝蓋骨脱臼」とはいったいどういった病気なのでしょうか?
症状や好発犬種、治療法などを詳しくお話ししたいと思います。

犬の膝蓋骨脱臼

赤丸に囲われた部分=膝蓋骨(しつがいこつ)

膝蓋骨(しつがいこつ)はいわゆる膝のお皿と呼ばれる楕円形の骨です。パテラと呼ばれることもあります。
正常であれば、膝蓋骨は大腿骨の正面にあるくぼみ(滑車溝)にはまっており、正面で安定することで、膝のスムーズな曲げ伸ばしを可能にしています。

「膝蓋骨脱臼」とは、膝蓋骨が本来あるべき位置から、ずれてしまっている状態をいいます。

膝蓋骨脱臼の種類とグレード

【種類】

● 膝蓋骨内方脱臼
膝蓋骨が膝の内側へ脱臼する病態を言います。

好発犬種:トイ・プードル、チワワ、ポメラニアン、ヨークシャーテリア、マルチーズ、パピヨン、豆柴などの小型犬種

● 膝蓋骨外方脱臼
膝蓋骨が膝の外側へ脱臼する病態です。
大型犬での発生が多いとされています。

内方・外方のどちらか一方だけではなく、両方に脱臼が起こる場合もあります。

【グレード分類】
膝蓋骨脱臼の重症度分類です。以下の4つに分けられます。

  • グレード1
    指で押すと脱臼するが、指を離すと元に戻る。普段の生活の中で自然に脱臼することはない。
  • グレード2
    指で押すと容易に脱臼するが指を離しても自然には元に戻らない。
    生活の中で自然に脱臼することがあり、脱臼した際に足をかばうことがある。
  • グレード3
    普段から脱臼したまま。指で押すと正常な位置に戻るが、離すと脱臼する。
  • グレード4
    普段から脱臼したまま。指で操作しても正常な位置に戻せない。

膝蓋骨脱臼の症状

  • 足を上げている、浮かせている、引きずっている
  • スキップする、ケンケンする
  • 足をピーンと伸ばすことがある
  • 段差を登りたがらない
  • 膝からポキポキ音が聞こえる
  • 痛み(キャンと鳴いたりする)

などの症状が起こることがあります。

膝蓋骨が脱臼することにより、太ももの筋肉や骨・靱帯のバランスが崩れ、後肢全体に様々な異常が起こります。
また、膝蓋骨が外れたり、戻ったりを繰り返すことで、徐々に軟骨がすり減り関節炎が起こる可能性があります。症状がひどいまま放置すると、大腿骨が変形をおこして足を着けなくなることもあるんです。

膝蓋骨脱臼の診断

膝蓋骨脱臼は、整形外科検査、レントゲン検査などを行い診断します。

触診では、膝蓋骨の外れやすさと骨同士の接触の有無などを確認します。
また、歩行検査を行って歩様の状態を確認したり、レントゲン検査を行って膝関節の状態・大腿骨や脛骨の変形、変位がどの程度なのかなどを確認します。

膝蓋骨脱臼の治療法

⚫︎ 外科手術

膝蓋骨脱臼の根本的な治療は、外科手術による脱臼の整復のみとなります。
若いわんちゃんで重度の脱臼がみられる場合は、放置すると筋肉や骨の異常が進行することがあるため、外科手術をおすすめすることが多いです。

膝蓋骨脱臼の術式は様々あり、症状やグレードにあわせて複数の術式を組み合わせて行います。

⚫︎ 保存療法

内服(鎮痛剤やサプリメント)やリハビリ運動・運動制限を行い症状の悪化を防いだり、体重管理(ダイエット)や生活環境の整備を行う方法です。

脱臼が軽度の場合や、高齢・持病などの理由から手術が行えない場合は、なるべく膝関節に負担をかけないような環境づくりを行います。
例えば、ツルツル滑るフローリングは膝へ負担をかけ、膝蓋骨脱臼を悪化させる原因になります。床に滑りにくいマットを敷いたり、肉球に被っている足裏の毛をカットしたりして膝への負担を和らげてあげましょう。
また、ジャンプや回転など後ろ足に負担のかかりやすい運動は極力避けるようにします。

消炎鎮痛剤など

過度の体重は関節に負担をかけるので、肥満気味の子は減量用フードなどを用いて減量を実施します。
関節炎や痛みが見られる場合には消炎鎮痛剤やサプリメントを使用することもあります。

無治療のリスク

度重なる膝への負荷がかかると、他の関節にも余計な負担が生じる可能性があります。

膝蓋骨脱臼のある犬では膝の靭帯断裂(前十字靭帯断裂)が併発しやすくなるといわれています。なんと、膝蓋骨内方脱臼を罹患している中高齢犬の15〜20%で発症するとの報告もあります。

まとめ

膝蓋骨脱臼は、遭遇することの多い病気です。
好発犬種のわんちゃんや、気になる症状がある場合は早めに動物病院で相談しましょう。
早い時期に気付くことで症状が軽いうちに治療を行うことができるかもしれません。
膝蓋骨脱臼という病気について理解を深め、愛犬が快適に過ごせるようにサポートしてあげましょう。

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石村先生わんわん診察室

石村拓也先生プロフィール

シリウス犬猫病院(川崎市中原区)院長。東京農工大学卒業後、横浜市の動物病院にて勤務。2017年3月、東急東横線元住吉駅そばにて現院開業。皮膚や耳の症例に精通しており、難治性の疾患で遠方から来院する患者も多い。日本獣医皮膚科学会所属。