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わんわん診察室|第32回

腸活

近頃、「腸活」という言葉をよく耳にするようになった人も多いのではないでしょうか?
ヒトでは、腸内環境の乱れが様々な病気と関連していることがわかっており、それらに対して、腸内環境を整える「腸活」が有用であることが解明されています。
そして近年、動物においても腸活の有用性が注目されているんです。

腸活を行うことによるメリット、腸活で大事な働きをする善玉菌の働き、などを詳しくご紹介していきたいと思います。

愛犬も腸活を始めよう!

「腸活」とは、腸内細菌叢を整えることで腸内細菌の多様性を高めるアプローチを言います。
腸は食べ物を消化・吸収するだけの臓器ではありません。腸は身体のすべての土台であり、健康にも密接に関わっているんです。
腸は、体の免疫を支える大きな役割も果たしており、実は免疫を担当する細胞の70%が腸に存在し、その調節に腸内細菌が大きく関わっていていることが知られています。

ヒトでは腸活により、免疫力アップ、アンチエイジング、基礎代謝向上、認知症予防、精神安定など様々な機能が改善することがわかってきています。
犬に関する研究報告はまだヒトほど多くありませんが、いくつかの論文も発表されています。

犬にとっても、腸内環境を整えてあげることは健康のための第一歩。
大切な家族である愛犬の健康維持の為にも、腸内環境を整える「腸活」
始めてみませんか?

腸と皮膚

犬のアトピー性皮膚炎の治療でも「腸活」が注目の的です。
犬アトピー性皮膚炎は、アレルギー性の炎症と痒みを繰り返す難治性の慢性皮膚疾患で、発生には遺伝的要因、免疫反応の異常、皮膚バリア機能の異常、花粉やダニなどの環境要因など、多数の要因が関与している難しい病気の一つです。
基本的には完治は期待できず、症状をコントロールするために薬物療法やスキンケアなどの長期的な管理が必要になります。

現在、犬アトピー性皮膚炎の治療ではステロイドやアポキルといった痒みや炎症を抑える薬物療法を用いるのが一般的です。 もちろんこういったお薬を使うことは必要ではありますが、「腸活」をすることで薬の量を減らしたり、休薬できる可能性が期待されています。

腸活による体質改善は効果が出るまで時間がかかりますが、身体に優しい、薬に頼らない治療に注目が集まっています。

犬アトピー性皮膚炎 皮膚の脱毛・発赤

犬アトピー性皮膚炎 繰り返す外耳炎

腸内フローラ

腸の活動を支えているのが、腸内フローラ(腸内細菌叢)です。
犬にもヒトと同様、さまざまな腸内細菌が存在します。

  • 腸内には多種多様の数百兆個の細菌が存在し、これらがお花畑のように見えることから「腸内フローラ」と呼ばれています。腸内フローラは、生まれた環境や食生活、年齢、ストレスなどによって変化し、健康状態に様々な影響を及ぼします。

    腸内フローラを構成する腸内細菌は、大きく3つ、健康に良い働きをする善玉菌、健康に悪影響を及ぼす悪玉菌、環境次第でどちらの働きもする日和見菌に分類されます。
    腸活では、善玉菌を積極的に摂り入れましょう。

近年、善玉菌が産生している「短鎖脂肪酸」と呼ばれる有機酸が、優れた効果をもたらすことが分かってきました。

短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が産生する、酪酸・プロピオン酸・酢酸などの有機酸のことで、
・腸内pHを弱酸性に保ち、悪玉菌の増殖を抑える
・体内に有害物質が入らないよう腸のバリア機能アップ
・アレルギーや炎症といった過剰な免疫を防ぐ
・全身のエネルギー源
・便通の改善
・肥満防止
など、さまざまな良い働きをしてくれることがわかっています。

腸活で取り入れたい要素!

前述の通り、理想的な『腸内フローラ』に整えるためには善玉菌を積極的に摂ると良いですが、さらに善玉菌のエサとなるものと合わせて摂ることで、より効果を期待できます。

  • 身体に良い善玉菌を含むもの:プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌など)
  • 善玉菌のエサとなるもの:プレバイオティクス(食物繊維やオリゴ糖など)

そして両方を合わせて摂ることをシンバイオティクス、と言います。
善玉菌とそのエサ(栄養源)をセットで摂ることで、効果的に「腸内フローラ」を整え健康を促進してくれます。

腸活の始め方

犬に対しては、まずは普段の食事に腸内フローラのエサになるプレバイオティクス(食物繊維やオリゴ糖など)を加えるところから始めてみましょう。
必要に応じて、乳酸菌やビフィズス菌を含むサプリメントを活用していくといいですね。

また、ストレスは腸内環境を乱す原因になります。

運動不足やコミュニケーション不足などストレスの原因はさまざま。愛犬をよく観察して、生活環境を整えてあげるのも大事です。一緒に遊ぶ時間を増やしたり、コミュニケーションを取る時間を増やしたり…なるべくストレスのない生活を心がけましょう!

まとめ

腸内細菌は実に様々な働きで私たちや愛犬の健康を守っています。
大切なわが子(犬)には、健康で長生きしてほしい…。ご家族の皆様が誰しも願うことですね。
愛犬のため、明日からでもすぐに始められる“腸活” 始めてみませんか?

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石村先生わんわん診察室

石村拓也先生プロフィール

シリウス犬猫病院(川崎市中原区)院長。東京農工大学卒業後、横浜市の動物病院にて勤務。2017年3月、東急東横線元住吉駅そばにて現院開業。皮膚や耳の症例に精通しており、難治性の疾患で遠方から来院する患者も多い。日本獣医皮膚科学会所属。