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わんわん診察室|第29回

犬の膿皮症 ①

膿皮症(のうひしょう)は、皮膚の細菌感染症です。皮膚の表面に存在する常在菌が増殖し感染することで生じ、かゆみや赤み、湿疹や脱毛などの症状を引き起こす皮膚病です。犬によく見られ、春先~梅雨・夏場などに多くみられます。
そこで今回と次回の2回に分け、犬の膿皮症について、原因や症状、治療法などを紹介していきたいと思います。

犬の膿皮症とは?どんな病気?

膿皮症は皮膚の細菌感染症ですが、他のわんちゃんからうつることはありません。
皮膚の表面には、元々細菌が一定数存在しています。これを常在菌といい、健康で皮膚のトラブルがないわんちゃんの皮膚表面にも存在しています。
しかし、さまざまな原因によって皮膚のバリア機能が低下し、常在菌が過剰に増えることで発症すると考えられています。

膿皮症は3つのタイプに分類されます。

  1. 表面性膿皮症…皮膚の表面でのみ細菌が増えている状態。
  2. 表在性膿皮症…表皮や毛包内に細菌感染を起こした状態。一般的な犬の膿皮症は表在性膿皮症がほとんどです。
  3. 深在性膿皮症…皮膚の深い部分にまで細菌感染が広がった状態。

膿皮症の症状

① 表面性膿皮症

皮膚の表面でのみ細菌が増えている状態です。皮膚が赤くなる程度の軽度の皮膚炎で、皮膚と皮膚が重なっている顔周りや陰部回りの皮膚などでよく見られます。
パグやフレンチ・ブルドッグなどの皺が多い犬種で多く見られます。

② 表在性膿皮症

皮膚の痒みや赤み、ニキビのような小さな膨らみ(膿疱)、ブツブツとした湿疹(丘疹)、円形の赤みや環状の痂皮(表皮小環)白っぽいかさぶた(痂疲)、脱毛などがみられます。
また、皮膚の炎症が長く続くと、皮膚の色が黒っぽくなることもあります。(色素沈着)

膿疱(のうほう)

丘疹(きゅうしん)

表皮小環(ひょうひしょうかん)

③ 深在性膿皮症

深在性膿皮症は、皮膚の奥深くにある真皮と皮下組織に起こる皮膚炎です。深在性皮膚炎では、痒みだけではなく痛みを伴うことが多いです。悪化すると、広範囲に腫れや熱感を示すようになり、発熱することもあります。

膿皮症の原因

アトピー性皮膚炎の犬

膿皮症の発症には、背景疾患が影響している場合がほとんどです。最もよく認められるのは犬アトピー性皮膚炎や食物アレルギーです。
また、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症をはじめとした内分泌疾患が原因で発症することもあります。

若い時から膿皮症を繰り返し、痒みが強い場合には犬アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの可能性を追求しましょう。
膿皮症への適切な治療を行い皮膚症状が改善したにも関わらず痒みが残る場合は、アレルギー性疾患が隠れている可能性は高いです。

中年齢以降から膿皮症を発症したわんちゃんでは、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症をはじめとした内分泌疾患が隠れていないか精査した方がいいですね。

皮膚にベタつきがある犬も要注意です。皮脂の分泌やフケが過剰になる脂漏症や汗の分泌が増える多汗症でも、膿皮症を生じることがあります。
多汗症では汗がたくさん出ることによって、皮膚が水分を吸って軟化、皮膚バリア機能の低下やpHがアルカリ性に傾くことで細菌が増えやすい環境になります。


ここまで、膿皮症の症状や原因などについてみていきました。
次回は、膿皮症の診断や治療法などについてみていきます。

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石村先生わんわん診察室

石村拓也先生プロフィール

シリウス犬猫病院(川崎市中原区)院長。東京農工大学卒業後、横浜市の動物病院にて勤務。2017年3月、東急東横線元住吉駅そばにて現院開業。皮膚や耳の症例に精通しており、難治性の疾患で遠方から来院する患者も多い。日本獣医皮膚科学会所属。