「4団地理事長」座談会

池尻団地建替えの場合

所有権と借地権の混在という難題を克服した池尻団地

インタビューのポイント①

耐震性の不足が建替えのきっかけ。

インタビューのポイント②

建替え検討には20年の歳月。

インタビューのポイント③

借地権と所有権の調整が建替え検討の大きな課題に。

建替えの概要

池尻団地は昭和38 年、東京オリンピックの前年に竣工しました。田園都市線池尻大橋駅から徒歩6分の、3棟125戸に店舗・事務所が併設された複合型の団地でした。複合型であったのは、昭和39年開催の東京オリンピックに向けた国道246号の拡幅に伴う店舗の移転先としての計画でもあったからです。首都圏不燃建築公社の分譲で、当時一般的だった割賦販売により分譲された団地です。割賦期間中の所有権は売主の公社に留保されており、昭和52年頃に割賦が終了することで所有権が区分所有者に移行しました。建替え前の区分所有権は借地権と底地権が混在した、非常に複雑な権利形態になっていましたが、今回の建替えに合わせて上記の複雑な権利関係も解消し、所有権の建物になっています。池尻団地でも地区計画による都市計画法上の一団地の解除を実施していますが、同時に隣接した公園の位置の変更も実現しています。(平成26年3月末に竣工)

東側からみた従前の池尻団地

東側からみた従前の池尻団地

再建建物の竣工予想図(西側)

再建建物の竣工予想図(西側)

建替え検討のきっかけ

賃貸率が高かった池尻団地

最後になりましたが、星野さん、池尻はどうでしたか。まず、区分所有者ご本人が住まわれていた比率から教えてください。

池尻は、区分所有者が住んでいたのは30〜40%くらい。あとはほとんど賃貸でしたね。立地的に非常によかったものですから、外部に移られた方も賃貸にして家賃収入を得るという方がほとんどで。空室だったのは数戸じゃないかと思います。

再取得率はどれくらいですか

125戸あったうち、83戸です。割合としては7割弱ですね。

賃貸されている方が多く、住まわれていた人は少なかったというお話でしたが、再取得率が高い理由をどうお考えですか

管理費と修繕積立金の精算で、建替え前の管理組合からある程度まとまった金額が配分されたものですから、住んでいた人にとっては、建替えの間の仮住まい費用をそのお金である程度まかなえたことが大きな要素だったと思います。賃貸していた人にとっては交通の便がいいことですね、歩いて6分で電車に乗れて、渋谷には3分くらいで着きますから。そのあたりじゃないですかね。

再取得率が高かった理由のひとつに、利回り目的で所有されていた方の多くが、建替え後も良好な利回りが期待できるので再取得されたということでしょうか

それは、あると思います。建替え前の住戸は結構安く買えた時期もありましたから、家賃を考えると投資の対象としてはよかったんじゃないですかね。それに、再建する建物を賃貸に出すと家賃は間違いなく現状の倍近くなりますから、手放すより持っていた方が、と考えたんじゃないですか。

耐震性の不足が、建替えへの決定打

では、建替えに至るいちばんの理由は何だったでしょうか

これは耐震性がいちばんの要因でした。平成8年に耐震診断を受けましたところ、震度5強で倒壊する可能性があるという結果が出ていました。それ以前から建替えを考えてはいたんですけれども、耐震性の不足が大きなきっかけになりました。実際、建替え決議の後に3.11があって、まああの規模の地震になりますと、すごい揺れなんですよね。玄関の開け閉めに支障が出た住戸もありました。

3.11に遭われた後、建物の着工まで半年以上ありましたけれども、引っ越された方が多かったとお聞きしているんですけれど

確かに、震災を機会に出られた方は、結構いらっしゃいました。個人的には震災をきっかけに、「新しい建物のことだけでなく、コミュニティとしての将来を考えなきゃいけない。」と強く感じました。

耐震性以外の問題はいかがでしたか

住戸と店舗・事務所という複合型の団地だったのですが、住宅が所有権で、店舗・事務所が借地権という形で権利が混在しており、その問題の解決も課題でした。この問題についての合意形成と手続きは非常に大変でしたので、それらの手続きを終え、皆さんが安全に退去されて、元の建物を壊したら、もう大した仕事はないんだろうと思っていました。後はデベロッパーさんなり、ゼネコンさんなりにお任せすれば、いいものをつくっていただけるだろうなと考えていましたので、平成23年の3月に解体が始まった時には、「ほんとうにこれで私の仕事はおしまい」、と肩の荷を下ろしたようなつもりでいました。でも、その後も建替組合の理事長として、新しい建物の工事や手続き等がありましたので、そうはいきませんでしたね。(笑)

建替え決議までの検討について

足かけ20年ほど要した建替え検討

池尻も建替えまでに相当長い時間を要したと聞いているのですけれども、期間的にはどれくらいですか

「建替え委員会」というのができたのが平成5年くらいですね。ただ、住居として住まわれている方だけの組合の組織で、借地権を持つ店舗の方が加わらない組織でしたので、現実的な検討は進みませんでした。進み始めたのは、平成20年に店舗と住居の方が一体となった統一組合ができあがってからですね。その後、コンサルタントを採用して、平成21年の6月に推進決議をし、10月にコンペを実施して旭化成さんを事業協力者に選定しました。

平成20年以前には建替えの検討は全く進まなかったのでしょうか

いえ、動きはありましたよ。以前の検討時点でもデベロッパーとしてある会社を選定して、等価交換事業で建替えようとしました。けれども、お話ししたように住居の方だけの組合で進めたものだから、店舗の方がついてこず、結局具体的な検討にはいたりませんでした。

もしかすると、その時点では、建替えは住居と店舗事務所が一緒になった管理組合で決める必要があることを、よくわかっていらっしゃらなかったというところもあるのでしょうか

そうかもしれません。もうひとつ、住居と店舗の関係でいえば、池尻団地は昭和38年にできあがっているんですけれども、元々が東京オリンピックのための道路(国道246号)をつくる際に立ち退かれた商店の方たちが入れるよう、突貫工事で建設した団地だったんです。ですから、店舗の方たちは自分たちのために建てられた団地だという感覚を持ってらっしゃいましたし、一方、住居の方は、分譲当時非常に人気のある団地だったので、何倍かの抽選に受かった人が大喜びで入居した。そうした、そもそもの意識の問題が、なかなか一体になれなかった要因になったのかもしれませんね。

デベロッパーとして当社を選定いただいてからはいかがだったのでしょうか

旭化成さんを選定した翌年の12月に建替え決議が成立して、平成23年8月には建替組合が設立しましたから、スケジュール的には順調でした。しかし、お話したように底地と借地の権利の調整はたいへんでした。

借地権と所有権の調整が建替えへの障壁に

そうしますと、やはり借地権と所有権との調整が、建替えに向けてのいちばんの課題ということだったのでしょうか

そうですね。いろいろな意見がありましたけれど、根本的にはそこじゃないかと思います。区分所有者にとっていちばん気になるのは権利の評価ですから、示された評価額を受け入れらないことが、最大の反対理由になっていたのではないでしょうか。評価の方法については幾度も議論した上で提案して、最終的にはほとんどの方が受け入れていただいたんですけども、最後まで納得せずに、強硬に反対した方もいらっしゃいました。
それ以外には、ここの団地の特殊な要因として、普通建物の存在がありました。区分所有でない建物が含まれた団地だったために、一括建替え決議ができずに、すべての棟での4/5以上の賛成が必要でした。そのため、建替えの決議の際に、反対されていた方は戸数の少ない棟に集中的に説得活動をされるということもありました。
結果的には全棟で4/5以上の賛成で決議は成立したんですが、そこに至るまでには、いろいろなドラマがありました。ここにいらっしゃる旭化成の杉山さんも当事者でしたから、実感としてあると思うのですが、強硬に反対する方への対応は本当にたいへんでした。ただ、これは池尻団地に限ったことではなく、どんな団地でも、少数ではあっても強硬に反対する方は、出てくるんじゃないないでしょうか。いろんな理由をつけて反対する、建替えの検討はそういう人たちがいることを前提に手続きを進めることが大事だと思います。

そういう意味でも、建替えの合意形成活動では専門家の知見が必要になる場面も多いと思います。先ほどコンサルタントを採用されたという話がありましたが、事業協力者として私どもを選定された理由も含め、ポイントはどのあたりだったのでしょうか

コンサルタントの方に入っていただいた理由は、まず借地権と所有権の評価の基準をつくることにありました。また、デベロッパーさんの選定に際しても、何十項目かあるポイントに専門家なりのウエイトづけをしてもらって、それに則って我々がきちんと評価できるチェック表をつくっていただきました。デベロッパーさんの選定に際しては、最終的に7社にプレゼンテーションしていただきました。各理事がチェック表の項目ごとに評点をつけていく形をとったのですが、その結果、いちばん高得点だった旭化成さんに決定したわけです。

知っておきたいキーワードチェック!

管理費と修繕積立金の清算とは?

建替えの際には管理対象となる従前の建物は解体され、なくなります。そのため、以前の管理組合は解散することになり、管理費と修繕積立金は、区分所有者に配分されることになります。池尻の場合は、相当額の修繕積立金が貯まっていて、その点ではかなり恵まれた団地でした。