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プロが語るお役立ち記事

旭化成専属獣医師の私「佐々木亜子」がペットに関する疑問や相談をその道のプロに直接聞きに行く訪問対談企画「プロの考え、プロのこだわり。」ペットに関する素朴な疑問や役に立つ情報を、獣医師としての視点を交え専門家の先生にお伺いします。

第5回目となる今回は、ドッグライターとして犬専門誌での連載や書籍の執筆などをされている大塚良重先生と、「シニア犬との生活」について、様々なお話をさせていただきました。

第5回 ドッグライター 大塚良重先生 × 獣医師 佐々木亜子

テーマ『シニア犬との生活』

佐々木
まずは、先生がドッグライターになったきっかけを教えていただけますか。
大塚
以前飼っていた犬が、成犬になる前に病気で亡くなってしまったんです。その時に自分が犬のことを知らな過ぎたことが原因だなと思いました。それからもっと犬のことを知りたいと考えるようになり、犬に関する本をたくさん読んで独学で勉強しました。その後、ご縁があって犬専門誌の編集部からお仕事をいただいたことがドッグライターとしてのはじまりです。
佐々木
先生は犬の介護についても色々と執筆されていますね。
大塚
その後一緒に暮らしていたシェルティが高齢になって介護状態になったことがきっかけで、シニア犬との生活について興味を持つようになりました。やがてその子が亡くなった後、雑誌でシニア犬を含む介護をテーマとした企画をさせていただき、シニア犬との関わり方や介護に関する記事を4、5年連載してきました。
佐々木
さて、今回のテーマが「シニア犬との生活」ということで、私はペット審査などの際に、高齢犬を飼育されている方にはフローリングに滑り止め用のマットなどを敷くことをアドバイスさせていただいていますが、他に特に注意することや用意しておくと便利というものはありますか。
大塚
高齢になると関節を痛めてしまう犬が多いので、床材は大事ですね。賃貸だと床材を個人で交換することはできないので、マットなどを敷くのはとても良いことだと思います。床が滑るとごはんが食べづらくなってしまうこともありますからね。それと、ふらふら歩き回るようになると、色々なところで倒れてぶつかってしまうことがあるので、クッションなどを使って家具や柱の出っ張りをガードすることも必要です。

ごはんの食器の高さを上げてあげると、食べやすくなります。©レディのママ

佐々木
私が以前勤めていた動物病院では、徘徊のような歩様をみせていた犬に対して、クッション材を円状に設置して、その中を歩き回れるようにしました。ご自宅で同様のケアをする場合、どのようにすればよいのでしょうか。
大塚
お風呂場のマットがおすすめです。ガムテープで貼って円状にできるほか、家具などのガード用としても使えますし、汚れたら買い替えることができるので、とてもリーズナブルで使い勝手が良いと思います。それと、小型犬であるなら、人間の子ども用の簡易プールを使う飼い主さんもいらっしゃいますね。

©レディのママ

©レディのママ

佐々木
シニアになると動きが鈍くなることから、お散歩へ行くのをためらう飼い主さんもいらっしゃいますね。私は飼い主様とお話しする際には、お散歩することでにおいや音、足裏の感触などの刺激を脳に与えることができるので、シニアになってもある程度のお散歩をするようおすすめしています。
大塚
その通りです。筋力を保つという意味でも、お散歩は無理のない範囲で行ってあげた方が良いと思います。ただ、シニア犬は体力が落ちているので、1回に長時間行くよりは、短時間の散歩を数回に分けて行ってあげる方が良いのではないでしょうか。
なかなかお散歩へ連れていくことが難しい場合は、室内を何周か回ったり、座る・起立・伏せといった簡単な動作(体に痛みなどがなく、それが可能な状態であるのならば)を繰り返したりすることで、筋肉を運動させてあげると良いと思います。
歩くことが難しくなってきたときは、ストレッチやマッサージをして、筋肉をほぐしたり関節が固まったりすることを防いであげると良いです。

歩行補助ができるハーネスを使えば、筋力が落ちてもお散歩することができます。©レディのママ

佐々木
弊社の物件では、多頭飼育されている飼い主様も多いのですが、1匹で飼育するよりも多頭飼育の方がシニア犬にとっては刺激になるのでしょうか。
大塚
そういう面はあると思います。ただ、年齢が近い犬を多頭飼育すると、シニアになる時期も一緒になってしまうことがあり、介護や病院通いで体力的・精神的・経済的に大変になることもあるでしょう。
それと、シニア犬に限らず、多頭飼育の場合、それが良い刺激になる子もいればストレスになって体調を崩してしまう子もいるので、よく考えたうえで新しい子をお迎えした方が良いですね。
佐々木
ところで、犬の介護について、共働きの場合はどのように対応したらよいでしょうか。やはり病院やホテルで預かってもらうなどしないと難しいような気がしますが。
大塚
できれば自宅で世話をするのが一番良いと思いますが、日中世話ができないのであれば、病院に預けたり、シッターさんにお願いしたりする必要もあるかもしれません。ただ、どこかに預けたりシッターさんにお願いしたりするのは、長期になるほどとてもお金がかかることにもなります。どこまで愛犬にお金や労力をかけられるのか、愛情はもちろん、そういった基本的なことにおいて家族間で温度差があると、場合によっては家庭崩壊になってしまうこともあります。ですから、犬を飼い始めるときに、シニアになったらどうするのか、だれが世話をするのか、ということいついてある程度家族で話し合っておくことが必要だと思います。
佐々木
たしかにそうですね。特に寝たきりになってしまうと、こまめに体位交換しないと褥瘡ができてしまいますし、共働きでなくても体力的・精神的にかなり大変ですね。
私が動物病院で働いていたころ、介護状態になった犬の安楽死の相談を受けたこともありました。私としては、中途半端に面倒見れずに褥瘡だらけで痛い思いをさせるくらいなら、安楽死も選択の一つかなと思いますが、いかがですか。
シニア犬のイメージ画像
大塚
北欧では自分でごはんを食べられなくなったり、立って歩けなくなったりしたら、それこそ動物にとって不幸であるという考え方があり、安楽死を選ぶ飼い主さんが思った以上にいるそうです。私も愛犬のシェルティが介護状態になったとき、悪性癌で苦しんだ時間もあったので、一瞬、安楽死を考えたこともありました。結局、「生きていて欲しい」「そばにいて欲しい」という気持ちの方が強く、決めることもできないままに介護を続けましたが、それは自分のエゴかもしれないとか、色々悩みました。今でもそのことを考え続けています。後悔のない、納得した「見送り」はなかなかないでしょうね。
佐々木
そうですね。最近では、ペットと飼い主さんが密に過ごすことになったことによってペットロスになる方も多いようですが、「そのとき」に備えての心構えや立ち直り方はありますか。
大塚
多頭飼育の方は多少ペットロスを軽減できている場合が多いように思います。と言っても人それぞれですが。あとは理想としては、犬に依存しすぎないというか、濃密すぎる関係にならないことですが、なかなか難しいですよね。私自身もペットロスになりました。でもそういう悲しみや苦しみも、あの子が残してくれた「宝物」ですし、一生抱えていくのだろうと思います。だから、忘れる必要も、無理に乗り越える必要もないと思います。
大塚さんがペットロスになったときに作成した愛犬のホームページキャプチャ

大塚先生がペットロスになった際に作成した愛犬LINDAのホームページ。作成していく過程で少し気持ちが整理できたそうです。

佐々木
素敵な考えですね。最後に、飼い主様に伝えたいことはありますか。
大塚
生きているものはやがて年をとります。シニア犬になったときの世話や介護をどうするのか考えながら、愛犬と暮らしていただきたいです。それと、犬の平均寿命は13歳くらいで、意外とあっという間に過ぎてしまいます。ですから、愛犬と過ごす今の一瞬一瞬を大切に過ごしていただきたいと思います。
佐々木
ありがとうございました。

シニア犬のケア

□ 歯
歯周病がひどくなると、歯周病菌が全身を回り、心臓などに影響を及ぼすことがあります。
高齢になってからケアを始めるのではなく、若いうちから歯磨きなどの口腔内ケアの習慣をつけておくことが大切です。
□ 爪
散歩の頻度が減ってくると、知らぬ間に爪が伸びていることがあります。こまめにチェックし、爪切りしてあげましょう。
□ シャンプー
全身シャンプーは体に負担がかかるので、体力が落ちている場合は流さないタイプのシャンプーや蒸しタオルで拭いてケアしてあげましょう。お尻の部分は排泄物などで汚れやすいので、部分的にお湯をかけて洗ってあげると良いです。
□ オムツ
サイズが合うものを選びましょう。人間用のオムツを使う方も多いです。