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プロが語るお役立ち記事

旭化成専属獣医師の私「佐々木亜子」がペットに関する疑問や相談をその道のプロに直接聞きに行く訪問対談企画「プロの考え、プロのこだわり。」ペットに関する素朴な疑問や役に立つ情報を、獣医師としての視点を交え専門家の先生にお伺いします。

第12回目となる今回は、西洋医学と東洋医学を融合させた医療を提供している「かまくらげんき動物病院」の石野孝先生に、動物に対する鍼灸治療について、診察や診断の仕方、治療方法から効果など、幅広くお話を伺いました。

第12回 かまくらげんき動物病院 石野孝先生 × 獣医師 佐々木亜子

テーマ『東洋医学(鍼灸)』

佐々木
先生が動物に対する鍼灸治療に興味を持ったきっかけは何だったのですか。
石野
私の父が人の鍼灸師をしていたのですが、鍼そのものではなく、治療を受けた満足感・安心感が加持や祈祷のような類の効果をもたらしているのではないかと少し疑問に思っていました。
動物ならそのようなことはなく、治療効果の有無や検証が行えるだろうと思い、獣医師を目指しました。
佐々木
獣医師になる目的が鍼灸治療効果を確認する、ということだったのですね。そして獣医師になったのち、中国で学ばれ、開業されたということですね。
当時は鍼灸治療を行う獣医師はほとんどいなかったと思いますが、周囲の反応はいかがでしたか。
石野
開業当初はほかの獣医師からも「あやしい」と言われ、あまり評価されませんでした。でもだんだんと、飼い主さんの意識が高くなり、ペットの寿命が延びて人と同じような病気をするようになってくると、人間同様に東洋医学を求める方が増えてきました。その結果、東洋医学を学びたいという獣医師も増えてきたかなと感じています。

鍼灸治療用の診察室は中国を感じる独特の雰囲気

佐々木
こちらの病院の患者さんは主に東洋医学の治療を求めて来院される方が多いのですか。
石野
いえ、私たちは地元の飼い主さんにとっては一般的なホームドクターなので、必要に応じて鍼灸などの東洋医学を取り入れるようにしています。
もちろん、鍼灸治療を求めて来院される方もいらっしゃいますが、そのような飼い主さんにも、中西結合(従来の中国の伝統医療に最新の西洋医学を結合させる、という意)の医療を提案しています。
佐々木
なるほど。ところで、そもそも東洋医学の特徴は何なのでしょうか。
石野
西洋医学では検査やデータに基づいて診断するのに対し、東洋医学では主に獣医師の五感によって診断していきます。心と体は一体で、心の異常は体に異常をきたし、逆も然りという考え方です。
また、西洋医学は根拠(診断名など)に基づいて治療を行うのに対し、東洋医学では『証』という、体質まで考慮した診断に基づいて治療を行っています。

舌を観察する「舌診」

肉球もニオイや色などを丁寧に観察します。

石野
ただ、すべて東洋医学が良いというわけではありません。例えば、感染症の場合は抗生剤などの西洋医学の治療の方が効果的です。
東洋医学はどちらかというと“養生=未病を防ぐ”ことが主になるので、腎不全が進行しにくいように体質改善をする、というような「病気と闘う力をサポート」する役割が大きいです。
佐々木
そのことをしっかりと飼い主さんに理解していただいたうえで治療を行っていくということですね。
石野
そうです。西洋医学の検査に基づいて、西洋医学なのか東洋医学なのか、双方を使って治療するのか、飼い主さんと相談しながら治療の方針を決めていくようにしています。

ツボについて説明する石野先生

佐々木
具体的に、治療はどのように行われるのでしょうか。
石野
鍼灸治療は1時間程度かかるので、飼い主さんとペットに安心していただけるよう、必ず飼い主さんとペットを挟んで対面で治療するようにしています。
嫌がってしまう子には鍼の代わりにレーザーを使用したりするなどの工夫もしていますが、治療を続けて満足いただくためには飼い主さんの協力も必要なので、このようなスタイルをとっています。

レーザー灸治療

温灸治療も行っているそうです。

佐々木
思った以上に時間のかかる治療なのですね。
病気にもよると思いますが、どのくらいで効果が出てくるのでしょうか。
石野
早い子だと翌日には効果が出ますが、治療計画ではたいてい8週間はみていただくようお伝えしています。
急性期の数週間は週1回程度、その後も養生(体のメンテナンス)のために数週間~数ヶ月に一度治療を受ける必要があるので、治療計画を立てる際に飼い主さんにしっかりと説明し、ご理解いただいた飼い主さんとペットに対して鍼灸治療を行っています。

鍼灸治療の様子

佐々木
鍼灸治療の対象の動物は犬のみですか。
石野
動物種は特に制限していませんが、攻撃的で治療が困難な場合はお断りしています。当院では猫も痛みや排尿障害、口内炎で来院され、鍼灸治療を受けています。
ただ、鍼灸治療を希望して来院される飼い主さんのなかには、「針治療でなんでも治せる」と魔法的な効果を期待している方もいらっしゃるので、まず電話で問い合わせいただいた際に鍼灸治療でできることについて説明し、ご納得いただいた上で来院してもらうようにしています。
佐々木
ペットに対する鍼灸治療がまだ比較的珍しいからこそ、期待値が大きくなってしまうこともあるかもしれませんね。
佐々木
さいごに、「+わん+にゃん」の飼い主様さんにメッセージをお願いいたします。
石野
私自身もそうなのですが、病気になって初めて「あの時にちゃんと養生しておけばよかったなぁ」と思うものです。そうならないためにも、病気になってから動物病院に行くのではなく、日頃から動物病院をうまく利用して、病気にならないよう心がけることが大切だと思います。そのような「養生」というのは、東洋医学の強みでもあるので、導入している病院があればぜひ一度相談してみて、未病を防いでいただけたらなと思います。