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プロが語るお役立ち記事

旭化成専属獣医師の私「佐々木亜子」がペットに関する疑問や相談をその道のプロに直接聞きに行く訪問対談企画「プロの考え、プロのこだわり。」ペットに関する素朴な疑問や役に立つ情報を、獣医師としての視点を交え専門家の先生にお伺いします。

第11回目となる今回は、日本初の「動物義肢装具士」で、現在は動物の義肢・サポーター・コルセットなど年間3000件の依頼に対応している、東洋装具医療器具製作所の島田旭緒さんに、動物義肢装具士としてのお仕事内容やこだわりを伺いました。

第11回 動物義肢装具士 島田旭緒さん × 獣医師 佐々木亜子

テーマ『動物義肢装具士』

佐々木
動物義肢装具士という職業はあまり聞き慣れませんが、どのようなお仕事ですか。
島田
獣医師の依頼でペットをはじめとした動物の義肢装具を作る仕事です。
人間の義肢装具の専門学校へ通っていた時、卒論のテーマで義肢装具の販路拡大の市場調査として動物の義肢装具について調べたところ、日本でもアメリカでもまだ全然使われていないということがわかり、動物の義肢装具について興味を持ちました。
佐々木
その後、どのような経緯で「動物義肢装具士」になられたのですか。
島田
卒業後は会社に就職して働いていたのですが、ある日会社の先輩が飼っていたチワワが骨折して手術をしたんです。その時に術後固定のコルセットのようなものを獣医師の先生が手作りしているのを見て、動物義肢装具の需要があるのではないかと感じ、勉強しようと思いました。
それから3年間会社員生活を続けながら、平日夜や土日に動物病院で様々な症例に触れながら実際に60例くらい義肢装具を作ったりしました。そして12年前に開業しました。
佐々木
動物用の義肢装具は当時まだほとんど知られていなかったと思いますが、周囲の反応はいかがでしたか。
島田
飼い主さんは「へぇー」という感じだったのですが、動物病院の先生の反応はとても厳しかったです。治療効果の根拠も口コミもなかったので、「手術の苦手な獣医師が使うものだ」ということはよく言われました。
開業当初は依頼件数も月0~1件くらいしかなかったのですが、その後獣医師が集まる学会でブースを出展して紹介したところ、良い反響をいただき、そのあたりから徐々に口コミで広まった感じです。
佐々木
動物用の義肢装具は人間用と比べ、どのような点が難しいですか。
島田
人は装具がずれてしまっても自分で直すことができますが、犬では不可能ですし、皮膚が人間より弱く擦れるとすぐに傷ついてしまうので、飼い主さんにしっかりと装着方法や擦れた時の対処法などを説明するようにしています。
生地は人間用と同じものを使っていますが、病気や用途、動物の大きさによって固定強度や硬さを細かく調整しています。
佐々木
犬の患者さんからの依頼がメインなのでしょうか。
島田
そうですね。犬が95%程度で、たまに猫の依頼もあります。あとはまれにウサギや鳥などの依頼を受けることがあります。
佐々木
特に依頼を受けることが多い疾患は何ですか。
島田
一番多いのは椎間板ヘルニアですね。あとは前十字靭帯断裂や膝蓋骨脱臼(パテラ)が多いです。
佐々木
ヘルニアはケージ内で安静にして治療することが多いですが、鎮痛剤を使うと犬は動きたくなってしまうし、そういう時に固定できる装具があると助かりますね。
佐々木
依頼から作製までの過程やこだわりのポイントを教えてください。
島田
依頼前に先生から相談を受けることが多いので、その際にオーダーメイドと既製品、どちらが良いか提案します。
既製品の場合はFAXで依頼を受けて、先生の採寸内容に合わせて作製して、だいたい1週間程度で届けるようにしています。合わなかったり不具合がある場合は送り返してもらって、調整してまた送る、という感じです。
オーダーメイドの場合は私が直接現地へ行って石膏で型取りしています。人間用でも型取りは義肢装具士が行っていますし、この「型取り」の工程はどんなに大変でも義肢装具士である自分が行うようにしています。納品時も直接私が届けに行って、飼い主さんに説明するようにしています。
佐々木
動物の場合、保険に入っていなかったりすると高額な費用がかかることがありますし、飼い主さんへの説明やその後のケアが大切ですね。
島田
装具に対する飼い主さんの期待が大きいことも多々ありますので、この程度までなら回復の可能性があります、これくらいの動きならできるようになります、といった説明も細かくするようにしています。
島田
装具をつけてもうまく歩けないときには、装具が悪いのか、犬が装具に慣れなくて歩けないのか、自分の目で確かめに行くこともあります。
時間の経過とともに患部が痩せてきてしまう場合もあるので、その時は都度調節したりもします。
装具を渡しらた渡しっぱなしではなく、その後の経過をみて、(ときには先生経由で)飼い主さんがどう感じているか考えることを大切にしています。
佐々木
島田さんのそのようなこだわりや情熱、細かいケアによって、たくさんの動物の生活の質が向上しているのでしょうね。
佐々木
さいごに、「+わん+にゃん」のご入居者様にメッセージをお願いいたします。
島田
もし装具が欲しいとか、興味のある時は、かかりつけ医さんに相談してみてください。オーダーメイドはそれなりの費用がかかるので、まずは既製品で探してみるのも良いと思います。
それと、大切なペットが足腰を痛めないように、床が滑らないようにマットを敷いたり、日頃から足の指の間の毛や爪をしっかりと切ってあげたりすることも大切ですね。