知りたい

プロが語るお役立ち記事

旭化成専属獣医師の私「佐々木亜子」がペットに関する疑問や相談をその道のプロに直接聞きに行く訪問対談企画「プロの考え、プロのこだわり。」ペットに関する素朴な疑問や役に立つ情報を、獣医師としての視点を交え専門家の先生にお伺いします。

第10回目となる今回は、川崎市で犬の幼稚園「犬の家 Wan Peace」を運営し、ご自身もドッグトレーナーとしてたくさんの犬の関わっている、宮岡智子さんに犬の“幼稚園”というシステムの内容や、一日の流れ、犬の幼稚園を選ぶ際のポイントなどを伺いました。

第10回 ドッグトレーナー 宮岡智子さん × 獣医師 佐々木亜子

テーマ『犬の幼稚園』

佐々木
宮岡さんがドッグトレーナーになった経緯を教えてください。
宮岡
もともと動物が好きで色々なペットを飼っていましたが、仕事にしようとは思っていなかったので、卒業後20年くらいは一般の会社でお仕事をしていました。
30歳前半で犬を飼ったのですが、それまでは実家で親がお世話やしつけをメインでやってくれていたので、初めて「自分が責任をもって飼う」ことになって、それが想像以上に大変で。
トイレは覚えないし、留守番中に家中を荒らしてしまうし、サークルも壊して出てきちゃうし…。困り果てている時に家庭犬の訓練士(トレーナー)の存在を教えてもらい、わが家に来てもらったんです。そしたら、ものの数分でうちの子の性格や行動パターンを言い当ててしまって。
そのことにとても衝撃を受けて、私もこの子のことをわかるようになりたい、と思ったことがきっかけでトレーナーの勉強をはじめました。
佐々木
自分の愛犬のことを理解したいと思ってはじめた勉強が、トレーナーとして独立開業にまで至るってすごいですね。
宮岡
私もはじめはトレーナーを仕事にするつもりはなかったのですが、犬のしつけは何が正解かわからないし、犬たちそれぞれ個性も十人十色だし、勉強すればするほど本当に奥が深いなと思うようになりました。
そして、さらに勉強・経験を積んでいく中で、もっと他の飼い主さんにも教えたい、広めたいという思いが強くなって、こちらの施設を開業することになりました。
佐々木
一般のトレーニング施設は1ヶ月預かったり、飼い主さんも一緒に通ったりするところが多いですが、こちらの“幼稚園”というシステムの特長を教えてください。
宮岡
“幼稚園”は基本的に朝お預かりして夕方帰る、日帰りのスタイルです。
飼い主さんも一定時間愛犬と離れることで冷静になり、寂しくなったり、困った行動の原因を考える余裕ができるようになります。また、犬たちは私たちと長時間一緒にいることで、私たちを信頼してくれ、して欲しいと思う行動を理解してくれるようになります。そしてその姿を見ることで、飼い主さんも「うちの子、できるんだ」と自信がついていきます。
それと、“幼稚園”は周りにたくさんの犬がいる環境で過ごすので、対犬への社会化ができることが最大のメリットです。

連絡帳には愛犬のその日の様子が丁寧に記載されています。

こちらの施設では、オプションでフィットネスやプールの課外授業も行っているそうです。

佐々木
犬の社会化期は短いですからね。その期間に色々な経験をさせてあげることで、飼い主さんとわんちゃんがさらに楽しく生活できるようにできるようになりますね。
宮岡
トイレやハウスなどの“トレーニング(しつけ)”は成犬になってからでも覚えさせることはできますが、社会化期は子犬の決まった時期だけなので、子犬を家に迎えたら早めに幼稚園を利用していただけたらなと思います。
ただし、社会化は、その時期だけすればよいものではなく生涯必要な事です。逆に、その時期を逃しても時間は掛かりますが社会化する事は可能です。
佐々木
成犬でも受け入れているのですか。
宮岡
成犬の場合は性格が出来上がっていて、他の犬の集団に入ることがストレスになる子の場合はレッスンでもなかなか学ぶことが難しいので、入園前に自宅トレーニングをおすすめすることもあります。
子犬でも成犬でもそうですが、まずは飼い主さんと犬に対してしっかりとカウンセリングを行って、その子に合う方法を考えています。
佐々木
個々にトレーニング計画を立てているのですね。
ところで、こちらの施設の一日の流れを教えてください。
宮岡
登園したらまず健康チェックを行い、排泄させた後に相性の合う子たちと遊びます。
お昼ご飯を食べたらクレートで休み、落ち着いたタイミングでトレーニングを行います。大切なのは「遊び感覚で楽しくトレーニングすること」。楽しくないとトレーニングが苦手になってしまうので。
最後は、綺麗にすることと練習を兼ねてお手入れしてお迎えを待ちます。
佐々木
なるほど。施設の運営で心がけていることはありますか。
宮岡
施設の運営では、安全面・衛生面・健康面の3つについては特に注意しています。
この施設のトレーニングルームは一見すると少し狭く見えますが、広いと犬が走ったときにスピードに乗ってけがをしてしまう可能性があるので、あえてこの程度の広さにしています。
衛生面や健康面では、少し体調が悪そうな子がいたらお迎えに来てもらうか他の子と離したり、月1回動物看護士の訪問があったり、極厚トイレシートを使って足が汚れないようにしたり…とても気を使っています。
佐々木
だからこれだけ犬が集まっていても、全然動物のニオイがしないのですね。
佐々木
このような“幼稚園”という形態の施設も少しずつ増えてきていますが、選ぶ際のポイントを教えてください。
宮岡
まず、見学させてもらえないところはおすすめできません。施設内の臭いや汚れ、トイレの始末具合などの衛生面もチェックしてほしいです。あとは、トレーナーが笑顔で犬たちと接しているかどうか、レッスンの際に感情的に叱っていないか、ということも大切なポイントです。
佐々木
どのような方に入園をおすすめしたいですか。
宮岡
犬を始めて飼う方や、ネットや本で勉強しすぎて情報を整理できなくなってしまった方には特におすすめです。ほかにも、共働きで留守番させる機会が多い方にも多く利用いただいています。
佐々木
さいごに、これから犬を飼う方やすでに飼っている方に向けてメッセージをお願いします。
宮岡
これから犬を飼う方に対しては、まず犬選びは慎重に、そして衝動買いはしないようにしていただきたいです。購入を決める前には、店員さんだけでなくトレーナーや犬飼育経験豊富な人に相談なさるのも良いでしょう。飼い主の年齢や性格、生活環境に合わない犬もいますので。保護犬を迎えるという選択肢もあります。
現在飼っている方に対しては、愛犬が訴えていることは本当にこういうことなのか?ということを意識してほしいと思います。適宜トレーナーや専門家に相談しながら、理解を深めていただければと思います。
長くて短い愛犬との10数年、どうやったらお互いが幸せに生活できるかということを、深刻にならずに一緒に楽しんで考えていけたら良いですね。