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【特別企画 第3弾 】ペットの介護(後編) / 老犬・老猫ホーム経営者 渡部帝先生

老犬・老猫ホーム経営者で一般社団法人老犬ホーム協会副会長を務めている渡部帝先生に”ペットの介護”に関する特別コラムをご執筆いただきました。

渡部帝先生

想像から始める「我が子」の介護(後編・猫編)

前編ではドッグオーナーの皆さまに、愛犬の老後の介護と、介護を最後まで継続するための飼育環境について想像していただきました。
それでは猫の老後や飼育環境にはどのような注意が必要でしょうか?
そしてペットの介護が大変な時、自分以外に頼れる存在はあるのでしょうか?
「我が子」を一生見守り続けるために、ぜひ一緒に考えてみましょう。

「老い方上手」な猫

前回、犬の4頭に1頭が要介護化し、飼育破綻の原因にもなっていることをお話ししました。
それでは猫の場合はどうでしょうか?

結論から言って、一般に猫は飼育破綻するほどの要介護にはなりません。
私の老猫ホームで何カ月も介護が必要だったのは、これまでに見送った60頭余りの内5頭程度、それも老化ではなく病気や障害によるケースばかりでした。
もちろん猫も年を取れば足腰が弱りますので、トイレを低くしたり食器台を利用するなど生活空間のバリアフリー化が必要です。
それでも犬のように立てなくなるほどの老化は見られず、寝たきりになって皮下点滴や強制給餌のような「看取り介護」をするのもほとんどは最期の数日だけです。

家族にさえ自分の病気を隠す猫の習性も介護期間の短さに関係しているのでしょう。
個人的には、少しは介護させてくれると亡くなった時の唐突感や喪失感が和らぐのですが…。
老い方としては猫本人の理想通りなのかもしれません。

猫は「長寿化」が飼育破綻の原因に?

このように猫は「ピンピンコロリ」タイプなので、介護が大変で飼育破綻するという例もほとんど聞きません。
それにもかかわらず、私の元へは毎週のように「猫が飼えなくなった」という相談が寄せられているのです。
その主な相談理由は次の通り。

  1. 1位:飼主の施設入居
  2. 2位:飼主の死去
  3. 3位:飼主の入院
  4. 4位:世帯員の変化

これらの飼育破綻の共通項は「飼主の高齢化」と、犬よりも著しい「猫の長寿化」です。

特に年配者層には猫の飼育期間を「10年くらいと思っていた」方が多いのですが、今は室内で大事に飼育されれば20年も珍しい事ではなく、その認知のギャップこそが飼育破綻の根本原因になってしまっています。
特に一人住まいやご高齢の飼主は、長ければ20年以上に及ぶ猫との生活の中で、ご自身の健康や家庭環境に起こり得るネガティブな変化も充分に想像しておいてください。

それでは、そのようにペットの寿命より先に飼主に問題が起こった時、あるいは犬の介護や夜鳴きで飼育困難になりそうな時、自分以外に頼れる存在はあるのでしょうか?

増え始めた「ペット介護サービス」

寝たきりの愛犬のために介護離職し生計を失った人。
長生きの猫のために施設入所を見送り続け、とうとう共倒れになってしまった人。
介護生活が続かず、殺処分を承知で保健所に引き取りを頼んだ人。
認知症で夜鳴きの激しい我が子に、泣く泣く安楽死を選択した人…。
どれも人とペット双方にとって悲痛な結末ですが、ひと昔前までペットの介護は100%自助が当たり前で、自宅で看てあげられなければこういった選択は必然でした。
ところが最近では次のような新しいペット介護サービスを活用し、悲劇を避けられた例が増えているのです。

ペットの介護サービス一覧

シニア対応
ペットホテル
最近では年齢制限のないペットホテルが増えてきました。さらにその中には、勤務時間だけ介護を任せるデイサービス、機能訓練もできるデイケア、しばらく自宅介護を休みたい時はショートステイ、など目的に合ったプランが用意されている施設もあり、近所にあればとても頼もしい存在です。
費用はケアの内容にもよりますが1日5千円~1万円程度。また、これらのサービスを備えた動物病院も増えています。
介護対応
ペットシッター
こちらは人間でいう訪問ヘルパーです。近年介護についても専門性の高いペットシッターが増えています。訪問先で自宅介護の方法をレクチャーしてくれる動物看護士も。
介護が必要なペットのシッティング費用は1時間で5千円程度必要なので、寝たきりケアなど付きっきりで居てほしい場合には不向きかもしれません。しかしペットにとって我が家という安心の環境でケアが受けられることは大きな利点です。
老犬ホーム・
老猫ホーム
どうしても自宅で看てあげられなくなった時、譲渡ではなく家族のまま飼育を託せる、言わば介護付き老人ホームのペット版です。タイプは都市型と郊外型に別れ、それぞれ特色やサービスが違うので事前見学は必須。
ホーム選びで重要なのはホームとの相性と面会アクセスです。入居費用は郊外型で年間50万円、都市型で100万~200万円が目安です。また、デイサービスとして使えるホームも各地に存在します。

ペットも介護サービスが受けられる時代になりましたが、人間の介護サービスに比べ、まだ数が少なく利用できるエリアが限られる事、そして公的にも民間にも介護保険はないので全て自己負担、という弱点があります。
前編の「介護破綻回避のための飼育環境再点検」の表で気になる項目が多かった方は、地域のペット介護サービスを検索し、いざという時に必要な費用も計算しておきましょう。

まとめ

猫についてはほとんど心配がない「介護破綻による飼育困難」ですが、20年以上飼い続けるための飼育環境の見直しは大切です。
要介護リスクの高い犬については、自分で看てあげられない時のためにペット介護業者を調べておきましょう。
ペット介護は人間に例えるなら、高齢者の介護よりも赤ちゃんのお世話に近いものです。
見方を変えれば、老いた我が子としか経験できない、しあわせなスキンシップの期間。
もし我が子が寝たきりになっても、付き添ってあげられる飼育環境と専門家の協力があれば、かならず介護を楽しみながら乗り切ることができます。
みなさんと我が子の生活が最後までしあわせなものとなるよう心からお祈りします。