知りたい

プロが語るお役立ち記事

【特別企画 第3弾 】ペットの介護(前編) / 老犬・老猫ホーム経営者 渡部帝先生

老犬・老猫ホーム経営者で一般社団法人老犬ホーム協会副会長を務めている渡部帝先生に”ペットの介護”に関する特別コラムをご執筆いただきました。

渡部帝先生

想像から始める「我が子」の介護(前編・犬編)

みなさんは大切なペット=我が子の老後をどのようにイメージしていますか?
特に初めてペットを飼う人にとって我が子の老いや介護は不安で考えにくいものではないでしょうか。
今回はドッグオーナーのみなさんと、必ず見守ることになる我が子の老後について想像していきたいと思います。

他人事じゃない?ペット介護問題

現在家庭犬の平均寿命は15年ほど。
ペットブームの始まったバブル期から比べて実に2倍強の長寿となり、まさにペットも高齢化社会です。
すると人間社会と同じように、寿命と健康寿命の乖離(老年期の長期化)からペットも介護問題が深刻化し、いまや4頭に1頭は何らかの介護が必要になるといわれています。
そして人と比べ、愛犬の介護生活は多くの場合突然始まってしまいます。

犬の寿命を人間の5分の1とすると、老化速度は5倍。
これは今日散歩している子が来週立てなくなる、そんなスピード感です。
ずっと我が子の元気な姿だけを見てきた飼主さんにとっては、大きな戸惑いと共に始まるのがペットの介護生活です。

老いた「我が子」を飼えなくなるとき

私は飼えなくなってしまったペットを預かる「老犬老猫ホーム」を運営していますが、入所理由の内訳は犬の場合、主因が飼主側にあるケース(老人ホーム入所・入院・死去・転勤など)が4割、犬側に起因するケースも4割、残りは双方による複合型の飼育困難です。
そしてその犬側による理由とは、実にほぼすべてが愛犬の「介護生活の破綻」で占められ、実際に要介護状態で飼育を引き継いだ犬は開所8年間で80頭に上ります。

そのつど飼主様から伝わってくるのは、「想定外」だった介護の大変さと、老いた我が子を手放すという不本意な選択への無念の思いです。
それでは「介護生活の破綻」を避けるために「想定」しておくべきこととは何でしょうか。

愛犬介護は孤独なマラソン

肉親が倒れてしまった時は、窓口に相談し、認定を受けて、ケアマネさんからデイサービスや訪問介護などのあらゆる保険適用サービスを紹介してもらいますね。
ここで振り返ってみたいのは、愛犬介護にはそのような支援の一切が存在しない、という当たり前の現実についてです。

人の介護生活はゴールの見えないマラソンに例えられますが、愛犬介護も同じく持久力が必要な、しかも孤独な長距離走です。
いざという時には自助の精神で、最期まで我が家で見守り続ける。
そのゴールを見据えるためのスタートとして、次の表で現在の飼育環境を確認してください。
そして気になった項目を愛犬介護生活におけるウィークポイントとして「想定」しておきましょう。

「介護破綻」回避のための飼育環境再点検
① 飼主の健康寿命
飼主の健康寿命 飼主と犬双方の高齢化による「老老介護」が増えています。飼主の年令から愛犬の年令を引き算してみた時、値が55以上だと老老介護リスクが高く、協力者が必要になりそうです。
② 家族構成
独りで背負い過ぎ「介護うつ」にならないためにも同居者は多いほど理想的です。ただし幼児や高齢者、他のペットがいる家庭はもっと大変になってしまうことも。
③ ワークスタイル
我が子が自力で水さえ飲めない、という状態でもお仕事を休めない方は多いでしょう。コロナ禍で推奨され始めた在宅ワークは、愛犬介護にとってはベストなスタイルです。
④ ご近所づきあい
認知症による遠吠えのような夜鳴きは介護の一番の悩み。近隣の理解を得られるかどうかは普段の良好な人間関係や、その人の犬への理解の深さも重要になってきます。
⑤ 外部サポート
ペットヘルパーやペット介護施設の存在はまだまだ少数ですが、近所にそういったサービスがないか調べておくことをお勧めします。

目立つ柴犬の要介護化

要介護化のリスクは個体差によりますが、犬種による傾向は存在します。
私の老犬ホームでケアした犬種(10kgまで)を介護内容別に、それぞれ多かった順に並べてみましょう。

寝たきりケア 1位:柴犬 2位:ミニチュアダックス 3位:シー・ズー
認知症ケア 1位:柴犬 2位:チワワ 3位:シー・ズー
摂食・排泄ケア 1位:柴犬 2位:ミニチュアシュナウザー 3位:シー・ズー
持病管理・通院 1位:ミニチュアダックス 2位:トイプードル 3位:パグ

人気犬種ほど上位にきますが、それにしても柴犬の介護の大変さ、特に認知症発症率の高さはすでに周知されているとおりの結果です。
特に「ペット共生賃貸」のようなペット飼育OKの賃貸に柴犬とお住まいされる場合は、この認知症リスクを充分考慮に入れておくべきでしょう。

自助だけでは乗り切れない介護も

なぜならまさに賃貸(集合)住宅で最も介護の破綻=飼育困難に直結しやすいのが、この認知症による夜鳴きという症状なのです。
悲鳴のような夜鳴きと向き合い続ける介護生活は、ご近所の理解を得られない限り、飼主の意思にかかわらず強制終了を迎えることになります。
ご相談による、鳴かせないための介護経験談はどれも凄絶です。
毎晩、夜通し添い寝してあやしつづけ、日中も昼夜逆転を直すため付き添いつづけます。
会社を休職し、自分の通院もできず、過労で愛犬と共倒れ寸前になる方も。

頼みの綱は動物病院でもらう安定剤ですが、これが効かなければいよいよ自助では超えられない壁となります。
そんな時に必要となるのが外部のサポートですが、ペット介護を手伝ってくれるサービスにはどのようなものがあるのか、それは後編で詳しく見ていきたいと思います。

まとめ

最近愛犬の自宅介護に備えて知識や技術を身に着けようという方は増えています。
しかしもっと大切なのは、毎日少しでも長い時間付き添ってあげられる環境づくり。
そしてもっとも大切なのは、介護生活をゴールまで継続できる環境づくりです。
今回はみなさんの飼育環境に潜む介護破綻リスクについて想像していただきました。
次回は猫の介護と、ペットの健康寿命の伸ばし方、介護を手伝ってくれる存在などについて考えていきましょう。