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【特別企画 第2弾 】ペットの防災(後編) / NPO法人ANICE代表 平井潤子先生

「NPO法人ANICE(アナイス)」で代表を務めている平井潤子先生に”ペットの防災”に関する特別コラムをご執筆いただきました。
後編となる今回は、実際の避難生活に関するコラムをお届けします。

平井潤子先生

「飼い主力」と「防災力」のパワーアップを目指そう!

東日本大震災時の避難所にいるペットの様子

「災害対策(危機管理)は平時の備えから」が基本です。
災害が発生してから慌てないように、前回に続き、「飼い主力」と「防災力」アップのために、避難生活に役立つ「ハード(物)の備え」と「ソフト(こと)の備え」について解説していきましょう。

必要な物を考える時のキーワードが「優先順位」

それがないとペットの健康や生命に関わるものや、代用がきかない物の優先順位は高くなります。

例えば、病気治療中で薬を服用していたり、指定された療法食(治療食)を食べていたりする場合は、薬や療法食が上位にきます。
大規模災害時は動物病院も被災しますし、医薬品の流通が途絶えてしまいますので、普段からゆとりを持って備蓄しておきましょう。

フード類をインターネット通販で購入している方は、災害時にはインターネットでの発注も配達もできなくなることをお忘れなく。
また、小動物や爬虫類などのように、一般的な救援物資に含まれない特殊な餌を食べているペット用のフードも、災害の規模によっては購入できなくなる場合がありますので、備蓄の優先順位は高くなります。

ハード「物」の準備

① 備えは「ローリングストック方式」で

消耗品を常に一定量ストックし、使った分をすぐに買い足していく方法です。
この方法であれば、賞味期限を気にせずに備蓄できますよね。

東日本大震災発生時には、道路の損壊や原子力発電所の放射能漏れ事故のため、長期にわたって流通が止まってしまったり、支援物資が届かなかったりした地域があります。
また、支援物資が届いたもののペット用品は含まれていなかった、という避難所もありました。
今後の発生が懸念される「南海トラフ三連動地震」のような大規模で広域な災害に備えるのであれば、少なくとも1か月分の備蓄を心掛けましょう。

飼育用品はペット用として備蓄が必要な物と、水のように人と共用できる物とで考えていきましょう。

療法食についてはかかりつけの獣医師に相談し、同じ効能を持つ複数のメーカーのフード名を控えておきましょう。
また、「これだったら暫定的に与えても大丈夫」というフードの種類をメモしておくことも大切です。
大規模災害の発生時にはいつも食べさせているフードが入手できるとは限らないからです。

災害時には、被災したショックや生活環境の急変によるストレスから、食欲不振になる犬や猫もいますので、大好物のオヤツや、ジェル状・スープ状・高栄養のフードや補水機能をもったドリンクなども少し用意しておくといいでしょう。

猫の即席トイレ

ビニールシートは、敷物にしたり、雨風をしのいだりする際に利用できますし、ビニール袋は排せつ物の処理に利用することもできる他、大きなゴミ袋であれば、ビニールシートと同じ用途で活用できます。
避難所では、用意される新聞紙を繊維の目に沿って細く裂き、少量の砂を置くことで猫の簡易トイレになります。

支援物資が入っていた段ボール箱を利用し、即席の猫用トイレや犬用ハウスにできますので、ガムテープやカッターも用意しておきましょう。

マジックペンがあれば、ガムテープにペットに関する情報を書いてペットのそばに貼ることでトラブル対策をします。
①飼い主の名前 ②飼い主の避難所内の居場所 ③ペットが苦手なこと(例:触らないで・食べ物をあげないで)、などを掲示し、臆病な犬にむやみに触ろうとして咬まれてしまったり、愛犬がおなかを壊してしまったり、といった事故を防ぎます。

さらにガムテープは、ペットの飼育場所から人の居住区域の戻る際、衣服についた抜け毛をとる際にも活躍します。

② 避難所でのお役立ちグッズ

● 犬の場合

散歩用のリードだけでなく、係留に適したリードも用意しておきましょう。
日ごろ室内飼育していて、長時間つながれることに慣れていない犬もいますので、必要に応じ、チェーンリードやワイヤー入りのリードのように嚙み切れないリードや、パニックになって暴れても首から抜けてしまわない機能がある首輪等を用意しておきましょう。

● 猫の場合

移動の時に使う小さなキャリーバッグの中では長期間暮らすことができません。
応急対策ではありますが、折り畳み式で軽量のテントケージを用意しておけば、中にトイレや水を入れることができます。

● その他

テント:
ワンタッチで広がるタイプのテントを用意することで、軒先や建物の片隅にテントを張り、その中で飼い主がペットと一緒にすごした事例があります。

スマートフォン等に保存した画像:
服用中の薬の記号番号や容量が印字してある面の写真、検査結果の画像を保存し、被災地での巡回診療の際、獣医師に提示します。飼い主と一緒に写った写真を用意し、迷子になって保護された際に、飼い主であることを証明します。

迷子札、鑑札、マイクロチップ:
複数の対策を重ね、万が一迷子になった場合に備えます。迷子ポスターを作っておけば、ただちに捜索が開始 できます。

③ 備蓄品のチェックポイント(犬猫共通)

洗濯ネットに入れた猫の様子

□ 薬
□ 療法食
□ フードや水
□ キャリーバッグ
□ ケージ等(軽量で持ち運びしやすいタイプ)
□ 排泄物処理袋
□ ペットシーツ・トイレ用品
□ 食器
□ ドライシャンプーや大判のウェットシート 等
□ 粘着テープ・マジックペン・カッター・ブルーシート・荷造用の紐
□ 首輪や胴輪
□ 犬のリード(伸縮タイプはNG)
□ 猫の屋外診療用洗濯ネット

ソフト「こと」の準備

犬であればしつけや社会化をしておくことで、大勢の人でごったがえす避難所で警戒し威嚇したり吠えたりすることがないようにします。
ケージに入る機会が多くなる災害時に備え、ハウストレーニングをしておくこともペットを飼い始めた時から始める備えだと言えます。

健康管理等も重要な備えです。避難所でのペット飼育スペースや動物保護シェルター等、動物が集団で生活する機会が増えます。
自分が飼育するペットの健康を守るためにも、周囲の動物に迷惑をかけないためにも、感染症予防のワクチン接種やノミ・ダニ・フィラリアの防除が必要です。

また、避難所ではペットを飼っていない人や動物が苦手な人、アレルギーがある人に対する配慮が欠かせません。
鳴き声や抜け毛、臭いに対し、飼い主同士が協力して掃除したり、ペットの様子をみたりして対策していきましょう。

さらに、動物好きな人対策も重要です。
動物が好きな人や子供が不用意に怯えているペットに触ろうとして咬まれてしまったり、ペットに与えてはいけない食べ物を食べさせてしまったり、というトラブルも発生しています。
ペット飼育スペースは、原則として飼い主と許可された人以外の人は立ち入り禁止とするのも一案です。

まとめ

実際の避難生活は予想外の出来事の連続です。
災害時に動物の好きな人同士で助け合うことがあったとしても、「動物好きな人への対策が必要」なんて想像したことはありますか?
災害に備えてソフトとハードで備えておくことは大切ですが、実際の避難生活で予想外の出来事が起こった時にどう対応できるのかも飼い主力・防災力にかかっています。
前編・後編と2回にわたりペットの災害対策の概要をお伝えしてきましたが、この機会に家族とペットを守るために「飼い主力」と「防災力」UPを目指していきましょう。