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わんわん診察室|第6回

シニア犬で注意したい慢性腎不全

犬の死亡原因トップ3をご存知ですか?
1位はがん、2位は心臓病、そして3位が腎臓病なんです。今回はシニア犬で注意したい死亡原因第3位の腎臓病、とくに慢性腎不全に関してお話していきたいと思います。

慢性腎不全てどんな病気?

腎機能の75%以上を失った状態を「腎不全」といい、慢性腎不全とはその名の通りじわじわと腎臓の機能が悪化していく病気です。
腎不全が進行していくと体内に毒素が貯まり、尿毒症などの重篤な状態を引き起こしたりします。

腎臓の基本的な機能単位を「ネフロン」といい、尿をつくって体の外に毒素を排出するなど、様々な働きをしています。腎臓にあるすべてのネフロンがフル稼働しているわけではなく、一部のネフロンが予備能力を残したまま働いています。病気などで片方の腎臓を失ったとしても腎機能を維持できるのは、残った腎臓の休んでいたネフロンが働いてくれるためだからです。
腎臓はこのような大きな予備能力を持っており、ダメージを受けたネフロンを受けていないネフロンである程度補うことができます。

そのため実際は腎機能が低下していても、症状がわかりにくいため見過ごされやすく、動物病院にきた時にはすでに末期の「腎不全」なんてことも少なくありません。

どんな症状が出るの?

愛犬に下記のような症状はありませんか?

  • 水をたくさん飲むようになった
  • おしっこの量が多く、薄くなった気がする
  • 食べが悪くなった
  • 痩せてきた
  • 嘔吐・下痢

実はネフロンが半分残っている間は、ほとんど症状が出ないと言われています。そして残りのネフロンが1/4くらいになるまでの間に上記のような症状がみられるようになります。
そしてほとんどのネフロンが機能しなくなってくると、体から毒素が排出されなくなり尿毒症という危険な状態になります。尿毒症では食欲不振、だるさ、アンモニアのような口臭、頻繁な嘔吐、けいれん、昏睡などの症状がみられるようになります。

慢性腎不全になりやすい犬種や年齢はあるの?

犬の慢性腎不全はすべての犬種で発症する可能性があります。
中・高齢犬で発生率が高くなります。

何が原因なの?

加齢やさまざまな腎疾患(糸球体腎炎、腎盂腎炎、遺伝性腎疾患、感染症、腫瘍など)が原因となって、腎臓の障害が慢性的に進行することによって発症するとされています。
急性腎不全から慢性腎不全に移行することもあります。

どうやって診断されるの?

以下のような検査を組み合わせて診断していきます。

① 血液検査

腎機能を反映する指標である尿素窒素(BUN)やクレアチニン(Cre)の上昇がないかどうか確認します。
ただし、尿素窒素とクレアチニンは腎機能が75%以上失われていないと異常が検出できないことが知られています。比較的新しい指標としてSDMAやシスタチンCというマーカーがあり、これらは尿素窒素やクレアチニンより早期に異常を検出できるとされています。

② 尿検査

尿の濃度やタンパク尿の有無を確認します。
腎機能が低下してくると尿を濃縮できなくなり薄い尿となります。
タンパク尿はすべての腎臓病で認められるわけではなく、基本的にはネフロンのうち、糸球体と呼ばれる部分に疾患があるときに認められます。

③ 超音波検査

腎臓の大きさや形が正常かどうか、腫瘍の可能性がないかどうかなどを確認します。

慢性腎不全と診断されたら

慢性腎不全は残念ながら進行性の病気で、一度ダメージを受けた腎機能は元には戻りません。そのため、「病気の進行を遅らせる」「症状を緩和する」ことが治療の鍵となります。
初期の腎臓病では、積極的な水分補給と食事療法が重要な治療となってきます。腎臓病になると体が脱水しやすくなり、脱水状態が続くと腎臓病は悪化します。

脱水しないよういつでも新鮮な飲み水を飲める環境を整えてあげましょう。また食事療法も大切で、初期から腎臓病用の療法食を食べていた方が食べていない場合と比べて長生きするという報告があります。

  • 腎臓病用の療法食を与える
  • 新鮮な水をいつでも飲めるよう環境を整える(複数の水入れを置く、汚れる前に交換)
  • 輸液療法で水分を補う
  • 動物病院で処方されたおくすりを飲ませる(タンパク尿や高血圧抑制のための薬、リンの吸着剤、胃薬、吐き気止めなど)

病気の進行によって様々な症状(貧血や嘔吐など)が出ることもあり、進行具合やそれぞれの症状に対して治療を行っていきます。

まとめ

慢性腎不全は初期段階では症状がわかりにくいです。シニアになったら健康そうに見えても年に2回は定期検診を受けることをおすすめいたします。
慢性腎不全は残念ながら治る病気ではありませんが、適切な治療とケアで寿命を伸ばせることが知られています。病気と上手に付き合い、1日でも長く愛犬と過ごせるよう願っています。

次回は急性腎不全に関してお話ししていきたいと思います。

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石村先生わんわん診察室

石村拓也先生プロフィール

シリウス犬猫病院(川崎市中原区)院長。東京農工大学卒業後、横浜市の動物病院にて勤務。2017年3月、東急東横線元住吉駅そばにて現院開業。皮膚や耳の症例に精通しており、難治性の疾患で遠方から来院する患者も多い。日本獣医皮膚科学会所属。