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わんわん診察室|第23回

避妊・去勢手術のメリット・デメリット

わんちゃんの飼い主さんが検討することの一つに、避妊・去勢手術がありますね。避妊手術や去勢手術は、健康な体にメスをいれて生殖器官を取り除く手術です。
手術を受けるか受けないかは、飼い主さんがメリットやリスクについて理解し、納得したうえで判断する必要があります。
今回は、避妊・去勢手術を検討するうえで参考にしていただきたいメリット・デメリットをお話ししていきたいと思います。

避妊・去勢手術とは?

避妊・去勢手術とは、外科的にメスでは卵巣や子宮を摘出(避妊)、オスでは精巣を摘出(去勢)する手術のことをいいます。
これらの手術を行うと、永久に妊娠する(させる)ことができなくなります。
全身麻酔をかけて行います。

避妊・去勢手術のメリット

避妊・去勢手術は望まれない妊娠を避けるだけではなく、生殖器に関連する病気や性ホルモンによって起こる病気を予防することができます。

① 生殖器に関連する病気の予防

〈メスで起こる生殖器関連の病気〉

手術で切除した子宮(中に膿が貯留)

・子宮蓄膿症

子宮内に細菌感染が起こり、膿がたまる病気です。出産経験がない高齢のメス犬に多く見られます。性ホルモンが長期間子宮に作用することで子宮が細菌感染を起こしやすくなることが分かっています。治療が遅れると死に至る可能性もあります。

乳腺腫瘍ができた犬

・乳腺腫瘍

乳腺の組織の一部が腫瘍化してしこりができる病気です。
犬の乳腺腫瘍の半数が良性・半数が悪性、と言われています。
乳腺腫瘍の発生には性ホルモンと深い関係があると言われており、犬では避妊手術時期によって発症率に違いが出ることがわかっています。
初回発情前に避妊手術を受けると乳腺腫瘍の発生率は0.5%と言われています。

〈オスで起こる生殖器関連の病気〉

・前立腺肥大症

高齢のオス犬に多く見られ、精巣から分泌される性ホルモンによって前立腺が大きくなり、血尿や排便障害などの症状を引き起こす病気です。

左:正常精巣 右:潜在精巣(萎縮)

・精巣腫瘍

通常犬では、生後約30日で精巣が陰嚢内に下降しますが、そのままおなかにとどまってしまうことがあり、それを潜在精巣と呼びます。
潜在精巣は、陰嚢の中にある精巣よりも約10倍の確率で腫瘍化しやすいといわれています。一部の腫瘍は悪性で転移することもあるので注意しましょう。
高齢になるにつれ、発症のリスクが高くなるので早めの去勢手術が推奨されます。

・会陰ヘルニア

会陰ヘルニアとは、未去勢の中高齢犬にみられることが多い病気です。
直腸や脂肪、膀胱・前立腺などが肛門周囲に飛び出てしまう病気のことをいいます。男性ホルモンにずっと晒されることによって会陰部の筋肉が薄くなってしまうのが一因とされています。
会陰ヘルニアが進行すると、自力で排便できなくなったり、尿道が曲がって排尿が難しくなったり、内臓の血行が悪くなり壊死してしまうこともあります。
治療には外科手術が必要です。

② 予期せぬ妊娠の回避

目を離した隙に交配し、望まない妊娠につながるなどの可能性がなくなります。

③ 発情に伴うストレスや攻撃性の軽減

未避妊の犬だと、だいたい年に二回発情期があります。外陰部からの出血を一日中気にして舐めたり、色々な物にお尻を擦りつけたり、神経質になり攻撃性が増したり、食欲の低下がみられるなどの行動がみられることが多いです。
犬にとってはかなりのストレスとなりますが、避妊手術により回避する事ができます。

避妊・去勢手術のデメリット

① 麻酔

全身麻酔を必要とするため、リスクは0%であるとはいえません。
中には麻酔に対してアレルギーを持っている場合や、フレンチブルドッグ、パグ、ボストンテリアなどの短頭種では呼吸器の問題が起こりやすいので注意が必要です。

② 肥満

避妊手術後は、基礎代謝率の減少によりカロリー要求量が減るので肥満になりやすい傾向があります。
肥満になると糖尿病や関節炎になりやすいので注意が必要です。
しかし今は避妊・去勢後用にカロリーが配慮されたフードもあります。食事管理をきちんと行えば適切な体重を維持するのは難しいことはないでしょう。

③ 縫合糸のアレルギー反応

手術時の縫合糸によって異物反応が過剰に起こり、アレルギー反応が出てしまうことがあります。ミニチュア・ダックスフンドにおいてこの反応が起こりやすいと言われています。

④ 繁殖できなくなる

一度失った生殖器官を取り戻すことはできません。手術後は子供を作ることができなくなります。やっぱり子供を産ませたいなどと考えても繁殖は不可能です。
少しでも繁殖を考えている場合は、慎重に検討する必要があります。

手術はいつ頃できるの?

一般的には歯が永久歯に生え変わる6か月齢以降が目安とされていますが、小型犬と大型犬でも手術適期は変わってきます。
成長スピードには個体差があるので、かかりつけの獣医師と相談しながら、愛犬にベストな手術の時期を決めていくのがいいでしょう。

まとめ

当然ではありますが、犬の避妊・去勢手術にはメリットもあればデメリットもあります。
メリット・デメリット、さらにライフスタイルなども考慮し、どういう選択がわんちゃんと家族のために一番良いのか、ぜひ検討してみてくださいね。

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石村先生わんわん診察室

石村拓也先生プロフィール

シリウス犬猫病院(川崎市中原区)院長。東京農工大学卒業後、横浜市の動物病院にて勤務。2017年3月、東急東横線元住吉駅そばにて現院開業。皮膚や耳の症例に精通しており、難治性の疾患で遠方から来院する患者も多い。日本獣医皮膚科学会所属。