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わんわん診察室|第22回

狂犬病予防接種

だんだん暖かくなってきて春の訪れを感じますね。
そして…そう!春は狂犬病の予防接種の時期です!

さて、毎年接種している狂犬病予防接種。狂犬病とはいったいどんな病気なのかご存知ですか?
今回は狂犬病に関して詳しくお話していきたいと思います。

日本における狂犬病

「狂犬病」は、一旦発症してしまうと、人・動物共にほぼ100%死亡する大変恐ろしい病気です。

現在、日本では狂犬病の発生はありませんが、発生の無い国はごくごく一部の国に限られており、世界中で狂犬病の発生が見られています。
近隣のアジア諸国でもほとんどの地域で狂犬病が発生しており、いつ日本に侵入してきてもおかしくはない状況です。
(ちなみに、日本以外の清浄国は、オーストラリア・アイスランド・ニュージーランド・など一部の国のみ)

厚生労働省HPより

昔は日本でも狂犬病の発生が見られました。しかし1950年にできた「狂犬病予防法」によって野良犬の捕獲・管理、狂犬病ワクチン接種の義務付けなどが実施され、日本で狂犬病の発生は見られなくなりました。世界でも希に見る清浄国という状態が続いたまま現在を迎えています。

※1957年の猫での発症を最後に日本での発生はありませんが、海外旅行中に犬に咬まれて帰国後に発症したケースが何例かあります。

狂犬病ってどんな病気?

狂犬病を発症した犬や野生動物に噛まれ、感染動物の唾液中に含まれるウイルスが傷口から体内に侵入し感染します。
「狂犬病」という名前ではありますが、犬だけの病気ではありません。
猫やキツネ、コウモリなど全ての哺乳類に感染し、人にも感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)です。

感染から発症までの潜伏期間は非常に長く、犬で1~2か月、人で1~3か月ほどです。
症状としては犬では多くの場合情緒不安定、攻撃性が高まるなどの異常行動を示します。
そして発症してしまった場合、残念ながら治療法はなく、ほぼ100%死亡します。

感染経路 病原体は感染動物の唾液に含まれ、咬まれることで伝染
主な症状 異常行動、けいれん、麻痺など
潜伏期間 長い(犬で1~2か月、人で1~3か月)
治療方法 なし(死亡率は犬・人ともに100%)

日本での発症はないから、狂犬病ワクチンは接種しなくてもいいんじゃない?

日本は過去 60 年近く狂犬病の発生の無い清浄国であるため、狂犬病感染に対するリスク感が低いです。しかし狂犬病は、日本の周辺国を含む世界のほとんどの地域で依然として発生しており、日本は常に侵入の脅威に晒されています。
2013年になりますが、台湾で狂犬病の犬への感染がありました。
台湾は、日本と同じく50年以上狂犬病の発生が無かった島国です。日本も他人事ではありませんね。万一の侵入に備えた対策が重要です。

過去のWHO(世界保健機関)による発表では、集団内の70%の犬へのワクチン接種が狂犬病の大流行を防ぐのに必要であると記されています。
残念ながら日本の狂犬病予防接種率は50%以下ではないかといわれており、もし日本国内に何らかの原因で狂犬病が持ち込まれてしまった場合、かなり怖い事になりそうなのは容易に想像できます。

飼い犬への狂犬病予防注射を徹底することで犬でのまん延が予防され、人への被害を防ぐことができます。
つまり、いざという時に人の命、そして愛犬の命を守るためにも、狂犬病の予防注射は必要なのです。

犬を飼っている人の義務

日本で狂犬病の発生が起こることがないよう、犬を飼う際は飼い主には「狂犬病予防法」により以下のことを守るよう義務付けられています。

①犬を飼ったら市区町村に登録すること

②狂犬病予防注射を毎年接種すること

③犬に「鑑札」と「済表」をつけること

狂犬病予防接種の免除

法律には例外はなく、生存している限り全ての犬は毎年接種を受けなければいけません。
ただし、獣医師が犬の健康状態から接種不可能あるいは接種による影響が大きいと判断した場合には接種を免除される場合があります。

予防接種後、顔まわりの腫脹などのアレルギー反応が見られた犬

  • 過去に受けた予防接種でアレルギー反応や体調の悪化がみられたことがある
  • 重症の感染症、全身疾患や免疫疾患に罹患している
  • 抗がん剤治療中
など

接種の猶予は、飼い主の申し出だけで申請することはできません。動物病院で診断を仰ぎ、猶予を証明する書類を発行してもらう必要があります。
正当な理由をもとに猶予証明書を発行してもらったら、役所の担当課へ提出しましょう。
ただし、猶予証明書は多くの場合1年しか効力がありませんのでご注意ください。

まとめ

日本では検疫などで、狂犬病を水際で食い止める仕組みがありますが、感染した野生動物が密輸などで国内に侵入し、そこから広がる可能性もゼロではありません。
近隣国では未だ狂犬病の発生は多く、いつ日本に侵入してくるかわからないのが現状です。
狂犬病は発症したら100%死亡するとても危険な病気です。
日本はこの病気を清浄化出来た数少ない国であるからこそ、接種しなくても良いのではなく、これを維持していくためにも高い接種率の実現が必要です。
狂犬病の蔓延を防ぐため、飼い主の皆さんが狂犬病に対して理解を深め、狂犬病のワクチン接種をうけさせることが大切ですね。

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石村先生わんわん診察室

石村拓也先生プロフィール

シリウス犬猫病院(川崎市中原区)院長。東京農工大学卒業後、横浜市の動物病院にて勤務。2017年3月、東急東横線元住吉駅そばにて現院開業。皮膚や耳の症例に精通しており、難治性の疾患で遠方から来院する患者も多い。日本獣医皮膚科学会所属。