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わんわん診察室|第18回

犬アトピー性皮膚炎 ②

犬アトピー性皮膚炎は、ハウスダストや花粉などに対し体が過敏に免疫反応を示し、かゆみを繰り返し起こす病気です。体質が関係するため若くから発症し、生涯付き合って行く必要があるため、継続した治療が必要となります。
今回は犬アトピー性皮膚炎の対処法について、詳しくご紹介していきたいと思います。

犬アトピー性皮膚炎の対処法

犬アトピー性皮膚炎は様々な因子が複雑に関与して発生し、他の皮膚トラブルも併発することが多い皮膚疾患です。そのため、わんちゃんごとにオーダーメイドで多面的な治療を行っていく必要があります。完治させることが治療目標ではなく、痒みを減らし生活水準(QOL:クオリティ・オブ・ライフ)をあげることが治療目標となります。また、基本的には生涯付き合って行く必要があるため、治療は長期間続けても体にも金銭的にも負担がかからないようにする必要があります。
わんちゃんの性格・環境を考慮し、獣医師と一緒に相談しながらその子に合わせた対処法を探していきます。

① アレルゲンの回避

犬アトピー性皮膚炎の主要な環境抗原(アレルゲン)のひとつに室内ダニやカビが挙げられます。
環境の清掃や洗浄、ダニ駆除剤や防ダニ加工のベッド、アレルゲンが付着するのを防ぐ犬用の服、空気清浄器の使用などもおすすめです。
カーペットやお布団はこまめな天日干しやクリーニングすることもとても大切です。

② 二次感染のコントロール

アトピー性皮膚炎では、膿皮症(細菌の増殖による皮膚炎)やマラセチア性皮膚炎(マラセチアの増殖による皮膚炎)などの感染症を二次的に併発することがよくあります。感染症のコントロールができないと、皮膚の状態はさらに悪化します。
これらの感染症がある場合は、それぞれの常在微生物に合わせた外用剤(薬用シャンプーや塗り薬)や内服薬(抗生物質や抗真菌薬)で治療します。
二次的な感染症は繰り返すことが多く、増えてしまう要因を探し出し出来るだけ原因となる微生物の増殖を抑えることが大切です。

③ 内服薬による痒みのコントロール

アトピーのわんちゃんの痒みを完全になくすことは残念ながら難しいです。そこでステロイドをはじめとした痒みの反応を抑える治療を行います。

(1) ステロイド

犬アトピー性皮膚炎の治療で、古くから良く使われているのはステロイドのお薬です。
“ステロイド”と聞くと副作用が心配な方も多いと思います。確かにステロイドは副作用に注意する必要がありますが、適切に使用することで早く痒みや炎症を止めてくれる良いお薬でもあります。

(2) 分子標的薬(オクラシチニブ)

2016年に発売された、比較的新しい痒み止めです。
痒みと炎症を引き起こす体内の成分の働きを選択的に阻害し、痒みと炎症の早期緩和をもたらします。ステロイドと同等の痒みを抑える作用がありながら、副作用が少ない点が利点です。

(3) 免疫抑制剤(シクロスポリン)

比較的高価なお薬ですが、副作用が少なく長期的な管理に優れています。投与開始時に一過性の嘔吐、軟便~下痢が見られることがあります。

(4) 抗体医薬(ロキベトマブ)

2019年に『サイトポイント』という注射薬が発売されました(有効成分ロキベトマブ)。これは抗体医薬と呼ばれ、近年注目されている医薬品です。痒みを誘発する主なサイトカインであるインターロイキン31という物質を特異的にブロックすることで痒みを軽減します。
1回の注射で約1カ月間、犬アトピー性皮膚炎による症状(主に痒み)を緩和する長期持続型のお薬です。

④ スキンケア(=皮膚バリア機能の維持)

アトピーの患者さんの皮膚は、生まれつき“皮膚のバリア機能が弱い”といわれています。
“皮膚バリア機能”とは外部の様々なアレルゲンや異物が皮膚の中に侵入するのを防いだり、体内の水分の蒸発を防いだりする働きのことです。
皮膚バリア機能を維持するために、スキンケアを行うことがとても大切です。

(1) シャンプー

皮膚の表面に付着した環境アレルゲンの除去にシャンプーは有効な方法です。しかし、アトピーの子の皮膚はバリア機能が低下しているため、洗浄成分には充分注意しなければなりません。アトピーのわんちゃんには保湿成分を含んだ刺激性の低い(アミノ酸系界面活性剤)シャンプー剤がおすすめです。

(2) 頻回の保湿

シャンプー後の皮膚はバリア機能が低下し、アレルゲンの侵入を容易にし乾燥傾向になると言われています。保湿成分が入ったシャンプー剤を使用したとしても、シャンプー後は必ず保湿剤を使用しましょう。
セラミド関連物質、ヒアルロン酸、リピジュア、必須脂肪酸、ヘパリン類似物質などの保湿成分が含有されている保湿剤がおすすめです。
シャンプーなどによる洗浄後はもちろんですが、それ以外の日でも積極的な保湿が大切です。これにより皮膚症状の緩和が期待できます。

(3) サプリメント(必須脂肪酸など)

アトピーのわんちゃんでは、脂質代謝に異常がある可能性が示唆されています。必須脂肪酸のバランスが崩れると、皮膚のバリア機能にも異常をきたす可能性があるのです。実は必須脂肪酸をサプリメントなどで補うことで、アトピーの症状を緩和させることが報告されています。
もちろんサプリメントだけで完治することは難しいですが、うまく併用することでステロイドなどの投薬量の減量を図ることが期待出来ます。

⑤ 減感作療法

減感作療法とは犬アトピー性皮膚炎の原因となっているアレルゲンを体に入れることで症状を和らげる治療法です。少しずつアレルゲンを入れることで、徐々に体をアレルゲンに慣らし、アレルギーを起こしにくい体質に改善していきます。
週1回の注射を5〜6回実施します。 すべてのアトピー性皮膚炎の犬で適応になるわけではなく、事前の血液検査で減感作療法が使用できるか否を判断します。
アトピー性皮膚炎は基本的に治る病気ではありませんが、減感作療法は犬アトピー性皮膚炎の治療の中で唯一治癒・寛解が望める治療でしょう。

まとめ

このように犬アトピー性皮膚炎の治療には様々な選択肢があります。
治療はわんちゃんの体質、飼主様とわんちゃんとの生活を考えたうえで、さまざまな治療法を組み合わせて行います。
「どのレベルまで行うか」はわんちゃんの性格、生活環境、飼主様の生活環境などを考え、個々に決めていくため、“これが正解!”っていうのはありません。治療のメニューはオーダーメイドとなります。

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石村先生わんわん診察室

石村拓也先生プロフィール

シリウス犬猫病院(川崎市中原区)院長。東京農工大学卒業後、横浜市の動物病院にて勤務。2017年3月、東急東横線元住吉駅そばにて現院開業。皮膚や耳の症例に精通しており、難治性の疾患で遠方から来院する患者も多い。日本獣医皮膚科学会所属。