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わんわん診察室|第17回

犬アトピー性皮膚炎 ①

某ペット保険会社の統計によると、犬の患者さんたちのうち、実に4割以上が皮膚または耳の疾患で来院されているというデータがあります。
動物病院来院理由の半分近くが皮膚病とはびっくりですよね!このように皮膚で悩んでいるわんちゃんはとても多いのです。
今回は皮膚がかゆい病気のなかでも、有名な“犬アトピー性皮膚炎”について紹介したいと思います。

犬アトピー性皮膚炎ってどんな病気?

犬アトピー性皮膚炎は、ヒトのアトピー性皮膚炎に症状が似ているところから、その名前が付けられています。

ヒトにおいてアトピー性皮膚炎は次のように言われています。
“繰り返す痒みを伴う皮膚炎であり、患者の多くはアトピー素因を持つ”
ちょっとわかりにくいかもしれませんが、つまり、アトピー性皮膚炎は、“ものすごく痒くて、良くなったり悪くなったりを繰り返し、遺伝や体質によるものが大きい病気” です。

引っ掻く動作

犬のアトピー性皮膚炎についても同じことが言えます。
そしてアトピー性皮膚炎は、環境抗原(アレルゲン)に対してアレルギー反応を起こしやすいとされています。

環境抗原(アレルゲン)とは、普段生活している環境の中にある物質で、アレルギーの原因となりうるもの、例えばダニ、花粉、ハウスダスト、細菌、カビ・・・などをさします。
しかし体質としてアレルギーを起こしやすい身体としても、本来アレルゲンは皮膚からは侵入できない物質です。アレルゲンが皮膚から侵入しなければ、アレルギー反応も起こさないはずなのに、なぜ反応が起きてしまうのでしょうか?
それにはもう一つの原因が関係しています。

アトピーのわんちゃんは皮膚バリア機能が低下している

アトピーの患者さんの皮膚は、生まれつき“皮膚のバリア機能が弱い”といわれています。
“皮膚バリア機能”とは外部の様々なアレルゲンや異物が皮膚の中に侵入するのを防いだり、体内の水分の蒸発を防いだりする働きのことです。
このバリア機能が低下するとアレルゲンが皮膚の中に侵入しやすく、さらに炎症を引き起こしやすくなります。
皮膚バリア機能が低下した皮膚では、アレルゲンが皮膚の中に侵入しやすく、結果アレルギー反応を引き起こしてしまうのです。

犬アトピー性皮膚炎を起こしやすい犬種

遺伝が関与するため、発症しやすい犬種がいます。
日本では、

  • 柴犬
  • シーズー
  • ウェストハイランドホワイトテリア
  • ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー
  • ダックスフンド
  • プードル
  • フレンチブルドック

などの犬種で多く見られます。

どんな症状が出るの?

主な症状はしつこいかゆみで、若い年齢(1~3歳)から発症することが多いです。慢性化しかゆみから患部を掻き壊してしまうことで、炎症や脱毛、色素沈着(皮膚の色が黒くなる)が生じます。

耳、口や目のまわり、足先(指の間)、脇、足や尾っぽの付け根(内股)などに症状が現れやすいです。

どうやって診断するの?

犬アトピー性皮膚炎の診断を行うことができる特定の検査はありません。
まずは、症状が犬アトピー性皮膚炎と似ている病気(ノミの寄生、膿皮症、マラセチア性皮膚炎、食物アレルギーなど)を除外します。

STEP1 ノミの寄生の除外

STEP2 その他の外部寄生虫の除外

STEP3 膿皮症やマラセチア性皮膚炎の除外

STEP4 食物アレルギーの除外

犬アトピー性皮膚炎と診断

ニキビダニ(外部寄生虫)

また症状が下記のような犬アトピー性皮膚炎診断基準に合致するかの確認を行います。(8項目中5項目合致する場合、犬アトピー性皮膚炎である可能性が高いです)

〈診断基準〉
① 3歳以下での発症
② 主に室内で飼育
③ ステロイド剤で痒みが治まる
④ マラセチア性皮膚炎に繰り返しかかる
⑤ 前肢に症状がある
⑥ 耳の内側に症状がある
⑦ 耳の辺縁には症状がない
⑧ 背中~腰部に症状がない

犬アトピー性皮膚炎の診断にはこのような診断ステップが必要であり、確定診断するためには、通常2~3か月かかる場合が多いです。
こんなに時間がかかるの…?とお感じの方も多いと思います。
しかし犬アトピー性皮膚炎のつらい痒みと長く付き合っていくためにも、じっくり時間をかけて、1つずつ検証して確実に診断していくことが必要なのです。

また、アレルギー検査を実施することもありますが、これはあくまで補助的な診断で確定診断できるものではありません。世界的な犬アトピー性皮膚炎の診断のガイドラインには現時点では組み込まれておらず、結果は治療の参考として使用します。

まとめ

犬アトピー性皮膚炎は、原因が複数関与している病気です。原因や悪化因子、環境因子が複数からんで、病気をより複雑なものにしています。
残念ながら、犬アトピー性皮膚炎は治る病気ではないので、生涯付き合っていく必要があります。そのため、確実に診断することがとても重要です。
たとえ、犬アトピー性皮膚炎と診断されてもかゆみを適切に管理すれば、ご家族とともに楽しい生活を送ることは可能です。

皮膚のことで気になることがあったら、自己判断せずに動物病院に相談してくださいね。
次回は、犬アトピー性皮膚炎の治療に関して詳しくお話していきたいと思います。

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石村先生わんわん診察室

石村拓也先生プロフィール

シリウス犬猫病院(川崎市中原区)院長。東京農工大学卒業後、横浜市の動物病院にて勤務。2017年3月、東急東横線元住吉駅そばにて現院開業。皮膚や耳の症例に精通しており、難治性の疾患で遠方から来院する患者も多い。日本獣医皮膚科学会所属。