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わんわん診察室|第13回

下痢② なかなか治らない下痢 “慢性下痢”

前回、下痢に関して少しお話させていただきましたが、下痢のほとんどは対症療法(止瀉薬、整腸剤、輸液療法など)により短期間のうちに症状が落ち着くことが一般的です。しかし治療を行っても改善が乏しく、下痢が続く場合もあります。

今回は、愛犬の下痢がなかなか治らない時に考えられる病気について詳しくお話ししていきたいと思います。

なかなか治らない下痢「慢性下痢」

一過性ですぐに症状がおさまる下痢を「急性下痢」といい、なかなか治らない3週間以上続く下痢を「慢性下痢」といいます。

慢性下痢の原因としては以下のものが挙げられます。

〈慢性下痢の原因〉
  • IBD(炎症性腸疾患)
  • 膵外分泌不全
  • リンパ管拡張症
  • リンパ腫をはじめとした腫瘍
  • アジソン病(副腎皮質機能低下症)
  • 寄生虫疾患(線虫、原虫など)
  • 膵炎
  • アレルギー
など

今回は、慢性下痢で多く見られる疾患をいくつか説明させていただきます。

① IBD(炎症性腸疾患)

炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory bowel disease)とは、免疫が関与しているとされる原因不明の慢性腸炎を言います。
BDの原因は明確にはまだわかっていませんが、遺伝的な素因や食事や環境、腸内細菌のバランス、免疫異常などが関与していると言われています。
症状としては、なかなか治らない下痢や嘔吐、食欲不振、体重の減少などが一般的です。重度になると消化管からタンパク質が漏れてしまう低タンパク血症や、それに伴って腹水の貯留などが見られることもあります。

複数の要因が関連した病気と考えられているため、食事療法、抗生物質、炎症細胞を抑える薬(ステロイド剤など)、免疫抑制剤の投与などを行っていきます。

② 膵外分泌不全

膵臓から分泌される消化酵素が何らかの理由によって欠乏することによって、食べたもの、特に脂肪の分解がうまくできなくなる病気です。
食欲があるにもかかわらず体重減少が起こり、未消化の便や下痢が見られます。
欠乏した消化酵素を足してあげる治療を行います。

③ リンパ管拡張症

体の中を流れる体液(リンパ液)の流れが妨げられ、リンパ液が通るリンパ管が広がり、必要なタンパク質が消化管から漏れ出してしまう病気です。
どの犬種にも発生しますが、ヨークシャー・テリアやマルチーズなどでの発生が多いです。低脂肪食などを用いた食事療法などを行います。

④ 消化器型リンパ腫をはじめとした腫瘍

消化器型リンパ腫は高齢の犬や猫に多く見られる消化管の腫瘍で、消化管の腫瘍の中でも発生率が高いです。
腸の粘膜でリンパ腫の細胞が増殖し、腸やその近くのリンパ節が腫れます。
治療法は抗がん剤治療が主体となります。

⑤ アジソン病(副腎皮質機能低下症)

副腎から分泌される副腎皮質ホルモンが不足することによって発症する病気で、副腎皮質機能低下症とも呼ばれます。
症状は元気消失、体の震え、下痢・嘔吐などが挙げられます。アジソン病ではストレスに対処するホルモンの分泌が低下するため、ストレス(環境の変化など)で悪化することが多いです。

家での慢性下痢の対処法は?

慢性的な下痢が続いた場合は、放っておかず必ず動物病院を受診しましょう。慢性下痢は悪性腫瘍などの大きな病気が原因であることも多いです。きちんと検査して、原因を絞り込むことが大事です。
また、感染性の下痢はワクチン接種や定期駆虫によって予防可能です。しっかりと予防しておきましょう。

まとめ

便は健康状態を知る大切なバロメーターです。毎日一緒にいると変化に気づきにくいかもしれませんが、ちょっとでもおかしいなと感じたら早めに動物病院を受診しましょう。

次回は、わんちゃんが異物誤飲してしまった場合についてお話していきたいと思います。

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石村先生わんわん診察室

石村拓也先生プロフィール

シリウス犬猫病院(川崎市中原区)院長。東京農工大学卒業後、横浜市の動物病院にて勤務。2017年3月、東急東横線元住吉駅そばにて現院開業。皮膚や耳の症例に精通しており、難治性の疾患で遠方から来院する患者も多い。日本獣医皮膚科学会所属。