旭化成専属獣医師の私「佐々木亜子」がペットに関する疑問や相談をその道のプロに直接聞きに行く訪問対談企画「プロの考え、プロのこだわり。」ペットに関する素朴な疑問や役に立つ情報を、獣医師としての視点を交え専門家の先生にお伺いします。
第4回目となる今回は、緊急災害時に飼い主様と動物が同行避難し、避難生活を送るためのサポートや、緊急時に備えての情報発信を行っている「NPO法人ANICE(アナイス)」で代表を務めている平井潤子先生と、様々なお話をさせていただきました。
第4回 NPO法人ANICE(アナイス)代表 平井潤子先生 × 獣医師 佐々木亜子
テーマ『ペットと防災』
- 佐々木
- 先生はペットと防災に関する様々な活動をされているということですが、もともとペットや動物に関わるお仕事をされていたのですか。
- 平井
- 昔は単に動物好きの主婦で、盲導犬のパピーウォーカーなどのボランティアをしていました。2000年の三宅島噴火の時に、島から東京へ避難してきた方達のペットを預かるシェルターでボランティア活動をしたことがきっかけで、「アナイス」を立ち上げました。その後大学へ行って動物について学び、現在の活動に生かしています。
- 佐々木
- 具体的にはどのような活動をされているのですか。
- 平井
- 災害が起こったら、まず被災地に入って情報収集し、それを分析・検討して、講演会などで社会に発信しています。災害が起きたらこうしてください、というよりは、被災地の現状をより多く伝えることで、自分自身が被災した時のためにそれぞれがオーダーメイドの対策を考えていただきたいと思い、このような活動をしています。
- 佐々木
- 確かに、飼い主様の生活スタイルや家族構成、ペットの数や大きさによって、対策は変わってきますしね。
ペットと防災という視点から考えた時に、賃貸住宅を選ぶ際のポイントなどはありますか?
- 平井
- 賃貸の場合、まずは建物が頑丈だということは大前提になると思います。ヘーベルメゾンは地震に強い構造のようなので、その点では安心感がありますね。
- 佐々木
- ありがとうございます。室内でできる防災対策はどのようなことがありますか。
- 平井
- 頑丈な家具を固定して、そのそばにペットスペースを設けていざというときに逃げ込めるようにするのも一つの方法です。ケージの中で留守番させている場合、そのケージが頑丈な作りなら倒れた家具から守ることができますが、夏場は注意が必要です。といいますのも、災害の際に停電してエアコンが切れてしまうと、ケージに閉じ込められたペットはそこから逃げることができずに、熱中症で命を落としてしまう危険性があるからです。
放し飼いで飼育している場合は、それぞれの家具をしっかりと固定しておくことはもちろん、飛散した窓ガラスの破片で傷ついてしまうこともあるので、できる限りの対策をしておくことが重要です。
- 佐々木
- なるほど。色々なパターンをシュミレーションしてみることが大切ですね。ワクチン接種も日常できる防災対策だと思いますが、いかがですか。
- 平井
- 災害時はペットも集団生活を送ることが多く、そこで感染してしまうリスクがあるので、適切にワクチン接種やノミダニなどの寄生虫対策をしておくことが大切です。また、避妊・去勢していない場合は、飼い主の目が行き届かない中、交尾してしまう可能性もあります。迷子になり放浪してしまった際の望まない妊娠のリスクや、猫が被災地で増えてしまっていた過去の出来事も考えると、避妊・去勢も防災対策のひとつだと言えると思います。
それと健康であっても年1回は健康診断をして、その子の平時の血液検査の値などを知っておくことも大事ですね。
- 佐々木
- 迷子になってしまった際には、マイクロチップが有効ですね。
- 平井
- 首輪に迷子札や鑑札をつけることも大切ですが、被災後痩せてしまったり、がれきに引っかかったりすると、首輪がはずれてしまうことがあります。そうすると、せっかく助かっても本当の飼い主さんと再会できなくなってしまいます。マイクロチップが入っていれば、たとえ迷子になってもいずれは飼い主さんの元へ帰ることができると思います。
- 佐々木
- ただ、マイクロチップは登録情報を変更していないと、いざというときに役立たないですよね
- 平井
- その通りです。飼い主さんの責任でしっかりと情報を更新していくことも防災対策の一つだと思います。それと手術痕や色柄、尻尾の曲がり方など、ペットの特徴を写真で記録しておくと、引取りの際に飼い主であることの証明がしやすくなります。
- 佐々木
- 防災への備えとして、家に用意しておくと良いものはどんなものがありますか。
- 平井
- 小型犬・中型犬であればクレートがあると避難所での生活で役立ちます。ただ、普段から慣らしておかないとペットがパニックになってしまいます。大型犬は歩いて逃げることになりますので、がれきで足を怪我しないようにバンテージのようなものを用意しておくと良いと思います。それと、大型犬は避難先で係留しておくこともあるので、チェーンやワイヤーが入った切れにくい係留用リードがあると良いですね。
猫は避難時用のキャリーバッグ必須アイテムです。そのほか、避難先で使用できるソフトケージのようなものがあると良いと思います。
- 平井
- 療法食や薬を常用している場合は、それらも一定量ストックしておくことが必要です。それと、病気療養中の場合は、検査結果や薬の記号番号をスマホで撮影しておくと、被災後の巡回診療の際にも役立ちます。
- 佐々木
- エサやお水ももちろんですが、優先順位をつけて、いざというときに何を持ち出すか、持ち出せるのか、日頃から考えておくことが大切ですね。
- 平井
- それと、日頃から他の飼い主さんとコミュニケーションをとっておくことも大切です。自分が外出していても、他の飼い主さんが在宅していれば、状況を教えてもらうこともできます。困った時に協力できるように、賃貸住宅でもみなさんが顔見知りになっていると良いと思います。
- 佐々木
- そのようなコミュニティ作りを促進できるよう、今後も色々検討していきたいと思います。
- 佐々木
- 最後に、ペットを飼育している方に向けて伝えたいことは何ですか。
- 平井
- 私は「防災の3R」ということをお伝えしています。
一つ目は「Readey」、飼い主さんが備えることでペットを守ることができます。
二つ目は「Refuge」、避難です。安全に避難して、避難先で生活できるように心構えを持ってほしいということです。
三つ目は「Responsibility」、責任ですね。これが一番大事なことで、ペットを守るために、まず飼い主さんが安全に生き延びてほしいということです。
そして、日頃から何が大事で準備しておかなければならないかを考えるのと同時に、社会に対して迷惑をかけないようにすることも飼い主の責任だと思います。そういう意識を持ってペットを生涯のパートナーとして守ってあげる、そしてその子たちからたくさん良い思い出などをもらえる、そんな幸せな関係を築いてほしいと思います。
【災害時の様子】