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プロが語るお役立ち記事

旭化成専属獣医師の私「佐々木亜子」がペットに関する疑問や相談をその道のプロに直接聞きに行く訪問対談企画「プロの考え、プロのこだわり。」ペットに関する素朴な疑問や役に立つ情報を、獣医師としての視点を交え専門家の先生にお伺いします。

第2回目となる今回は、猫とシニア専門の出張トリミングを手掛ける齋藤美香先生に、「猫のシャンプーや日常ケア」などについて、様々なお話をさせていただきました。

第2回 猫とシニア専門の出張トリマー 齋藤美香先生 × 獣医師 佐々木亜子

テーマ『猫のシャンプーや日常ケア』

佐々木
出張で猫とシニア専門でトリミングを行っているということですが、どのような経緯でこのようなお仕事を始められたのでしょうか。
齋藤
もともとはペットショップで25年くらい働いていたのですが、「猫のトリミングに対応してくれるお店がほとんどない」「寝たきりの大型犬をお店に連れて行くのは大変」というようなお客様が結構いらっしゃったんです。
そこで、私自身がお客様のお宅へ出向く「出張」というやり方が良いのではと思い、2年前に独立しました。
佐々木
トリミングというと、サロンや動物病院で行うイメージなので、珍しいですね。
特に猫は一般のサロンでもあまり受け入れがないような印象があります。
齋藤
そうですね。しかも猫は普段から外へ行く習慣がないので、連れ出すだけでも興奮して大変、ということもあります。
ですから出張形式で、麻酔を使わずにトリミングすることで、猫に与えるストレスを軽減できたら、と思いました。
佐々木
猫はデリケートな性格な子が多いですからね。
飼い主様のご自宅でどのようにトリミングを行うのですか。
齋藤
ご自宅のお風呂場を借りて行っています。狭い空間で逃げ出す心配もないですし、汚れてもお掃除がしやすいですからね。
飼い主様が見学される場合は、バスタブスペースに入ってみていただくことが多いです。
佐々木
飼い主様が見学されることもあるのですね。
齋藤
私は、「飼っている猫のケアは、できることはなるべく飼い主様が行った方が良い」と思っています。ですから、私がシャンプーやトリミングしているところを見学していただくことで、飼い主様にケアのコツを少しでも教えられたらと思うのです。
佐々木
素敵なお考えですね。
ところで、猫は水が嫌いなイメージがありますが、シャンプーのコツを教えていただけますか。
齋藤
猫は水が嫌いというよりも、シャワーの「シャー」という音が苦手なのです。ですから、私はシャワーヘッドをはずしたりカランに切り替えたりして、「チョロチョロ」と水勢も弱めにして流してあげるようにしています。
今までお風呂嫌いだった子も、こうするだけでおとなしくなることが多いです。
佐々木
シャワーヘッドをはずす、という発想はなかなか思いつきませんね。
シャンプー剤を選ぶポイントはありますか。
齋藤
合成界面活性剤のシャンプー剤でなく天然の植物油脂で出来たものを選ぶことをお勧めします。
特にリンスインは皮膚表面に残留し長年使用することにより分解されず蓄積され皮膚トラブルの原因になります。なので私はちゃんとした知識のあるソーパーさんに作ってもらった、ホホバ油 や椿油が入った天然植物油石鹸でシャンプーしています。
佐々木
なるほど。
ところで、世間には猫は「毛づくろいしているからシャンプーは不要」というお考えの方も多いと思います。確かに若いうちは、毛づくろいで十分だとは思うのですが、シニアになって毛づくろいがうまくできなくなった時のケアを見据えて、私は猫の飼い主様に対して、小さいころから定期的に蒸しタオルで拭いたりシャンプータオルでケアすることをおすすめしています。
先生のお考えはいかがでしょうか。
齋藤
私も同じ考えです。ただ、長毛種は日常の毛づくろいだけでは難しい部分があるので、人間がブラッシングで手助けしてあげた方が良いと思います。
特に毛の抜け替わりが多い換毛期は、飼い主がお手伝いした方が、なめとった毛がおなかにたまることを軽減でき、毛球症や腸閉塞の防止にもつながります。
佐々木
長毛種全般は特に気を付けてブラッシングした方が良いということですね。
短毛種でもブラッシングをした方が良い品種はありますか。
齋藤
アメリカンショートヘアのような毛の多い品種はケアしてあげたほうが良いです。スコティッシュフォールドも同じ系統なので、是非ブラッシングしてあげてほしいですね。
佐々木
毛の多い品種や長毛種は毛玉ができやすいですからね。
私が病院で勤務しているときも、毛玉が分厚い皮膚のようにガチガチに固まってしまっている猫が来院したこともありました。
齋藤
それくらい固まってしまった毛玉はバリカンで取り除くしかないですね。
でもそうなるまでに小さな毛玉ができているはずなので、日々のお手入れで予防してほしいと思います。
佐々木
ブラッシングのコツはありますか。
齋藤
スリッカーの場合は、皮膚に対してブラシを平行に当てるか、ブラシの後方から当てるようにします。ただ、スリッカーは表面だけで根元まで届いていない方が多いので、コームでとかしてあげた方が良いと思います。
コームの使い方は、換毛期は毛の流れに逆らうようにとかした後に、毛流れに沿ってとかすと、効率的にブラッシングすることができます。

(左)スリッカー、(右)コーム

皮膚に対してブラシを平行に当てるか、ブラシの後方から当てるようにするとよい

おなか周りもしっかりとブラッシング

ブラシを立てるとブラシ前が皮膚に刺さり皮膚を痛める

毛の流れに逆らうようにとかした後に、毛流れに沿ってとかすとよい

佐々木
そうなんですね。
ところで、猫のトリミングというのはあまり見たことがないのですが、どのようにカットされるのですか。
齋藤
わんちゃんと同じようにハサミを使っています。
猫の毛は犬の毛よりもやわらかいので、なかなかキレイに仕上がりにくいですが、長毛の老猫で毛づくろいが大変そう、ということで中短毛くらいの長さにトリミングしています。
佐々木
なるほど。
最後に、猫ちゃんの飼い主様に伝えたいことはありますか。
齋藤
猫に限らずですが、自分で飼った子は最後までちゃんとお世話をしてほしいです。
もちろんケアをプロに頼むのも良いですが、自分でできることはなるべく自分でした方が良いと思います。そうすることでペットと飼い主さんとのスキンシップに繋がりより良い関係を築けると思うので、これからも出張トリミングという仕事を通して、飼い主様に色々なことをお伝えできればと思います。
佐々木
ありがとうございました。

お手入れQ&A

Q. 爪切りの頻度は?
A. その子の状態にもよりますが、できれば月1回はやってあげてほしいです。ちゃんと爪を切っていれば、爪とぎする頻度も減るので、壁紙を傷つける心配も少なくなります。

猫専用の爪切り

前足は猫の視界に入り嫌がるので、しっかり押さえて時間をかけずに切る

Q. 耳掃除は必要?
A. 見える範囲で汚れがあれば拭き取る程度で十分です。シャンプー後は耳に水が入っていることもあるので、コットンなどでやさしく拭き取ってあげても良いと思います。ベタベタした汚れや赤みがある場合は、動物病院を受診しましょう。

見えるところの汚れを拭き取る

Q. 歯磨きは必要?
A. 必要です。歯ブラシは嫌がってしまう子が多いので、ガーゼなどを指に巻いて歯の表面を拭いてあげるだけでも良いです。

綿棒を使ってもよい

Q. 足裏の毛が長い場合は、切った方が良い?
A. 床で滑ってしまうときは取り除いてあげた方が良いですが、ハサミだと皮膚を切ってしまうことがあるので、動物用バリカンを使うことをおすすめします。
Q. 肛門腺のケアはどうすれば良いの?
A. コツが難しいので、なるべく動物病院で処置してもらった方が良いです。
Q. 猫草って必要?
A. 食べてくれない猫も多いので、絶対に必要とは思いません。猫草はお腹にたまった毛玉を吐くために食べているので、ブラッシングや毛玉ケア用フードで、毛玉がお腹にたまるのを予防してあげると良いでしょう。