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プロが語るお役立ち記事

旭化成専属獣医師の私「佐々木亜子」がペットに関する疑問や相談をその道のプロに直接聞きに行く訪問対談企画「プロの考え、プロのこだわり。」ペットに関する素朴な疑問や役に立つ情報を、獣医師としての視点を交え専門家の先生にお伺いします。

記念すべき第一回目は、「専門学校 東京スクールオブビジネス グルーミング(トリマー)講師 ペットサロン Grunewaldトリマー」の林幹子先生に「犬のシャンプーやブローのコツ」について色々とお話をさせていただきました。

第1回 トリマー 林幹子先生 × 獣医師 佐々木亜子

テーマ『愛犬のお手入れ~シャンプー・ブラッシング~』

佐々木
まずは、先生がグルーミングの講師になった経緯を教えていただけますか?小さいころからトリマー関係のお仕事に就きたいと思っていたのですか?
昔から動物と関わる仕事をしたいと思っていました。
ただ、動物園の飼育員にしろ、盲導犬訓練士にしろ、就職は狭き門なんです。もう少し簡単に動物と関われる仕事がないかと考えていた時に、トリマーという仕事を知りました。
一時は動物看護師を目指したこともありましたが、「自分がカットをすることで、飼い主様に喜んでもらえる」ことに魅力を感じて、専門学校卒業後はペットショップでトリマーとして働きました。
佐々木
その後学校の講師になられたということですね。
さて、早速ですが今日のテーマ「愛犬のシャンプー・ブロー」について教えてください。愛犬を家でシャンプーするときに、どんなシャンプーを選んだら良いのか迷ってしまう方も多いと思います。何か選ぶときのポイントはありますか?
香料の少ないものを選んだ方が良いと思います。香料が強いということは、添加物が多いということですよね。
犬の皮膚にとって添加物はあまり良いものではないので、なるべく香料が少なくて、肌にやさしいものを選んであげてください。
佐々木
犬の皮膚は人間よりも薄くて、デリケートですもんね。
私は自分の愛犬達のシャンプーをするとき、皮膚や毛をよく濡らすようにしていますが、お店ではいかがですか。
お店では軽くお湯をかける程度で、すぐに1回目のシャンプーをしています。犬の皮膚や毛は油っぽく、お湯をかけてもなかなか浸透しなくて、時間がかかってしまいますからね。
1回目は洗うというよりも、表面の油を落としてあげるイメージで、シャンプー剤をかけてすぐにお湯で流しています。こうすることで2回目のシャンプーの時に、お湯が浸透しやすく、シャンプーも泡立ちやすくなります。
佐々木
シャンプー剤を使うときのポイントは何ですか?私は、スポンジで泡立ててから、泡でやさしく洗うようにしています。
お店では市販のシャンプーを2~3倍に薄めて別の容器に入れ、これをそのままかけて使っています。顔周りや頭は嫌がる犬が多いので、最後に洗うようにすると良いです。
それと、洗うときは「皮膚を洗う」ことが大切なので、しっかりと毛をかき分けて洗ってあげてください。
佐々木
シャンプーが終わった後、リンスが必要だと言われていますが、保湿のほかにも効果や目的はありますか?
多くのシャンプー剤はアルカリ性なので、シャンプー後の皮膚や毛はアルカリ性に傾いています。この状態のままにしておくと、皮膚がガサガサになってしまうので、中和するためにリンスを使います。
リンスインシャンプーの場合でも、皮膚トラブルを起こしやすかったり、換毛期だったり、毛がきしんでいる子はリンスをしてあげた方が良いです。
シャンプーと同じく、リンスも薄めて使うと良いです。
手桶に1円玉くらいのリンスを入れて、それをお湯に溶かしてかけてあげるだけで、十分しっとりしますよ。リンス後はしっかりと流してあげてくださいね。

シャンプー原液(左)、薄めたもの(右)

手桶に対してこの程度のリンスでOK

佐々木
このあとブローになりますが、その前のタオルドライが重要ですね。
ここでちゃんと水分を拭き取ってあげると、ドライヤーをする時間が少なくなって、皮膚や毛への負担も軽くなりますね。
そうですね。タオルドライの際は、まずお腹をしっかりと拭いてあげることが大切です。
足の先端も乾きづらい部分なので、よく拭いてあげると良いです。ブローの際もまずはお腹を乾かしてあげて、お腹が冷えるのを防いであげましょう。
お腹は少しやりにくい場所なので、抱っこしてドライヤーをあててあげるだけでも良いと思います。
佐々木
ドライヤーをあてるときは30cmくらい離す、というイメージですが、いかがでしょうか。
乾かし始めは、犬は寒がっていることが多いので、ドライヤーを近づけて使った方が良いです。
このときコームなどは使わずに、手で毛をかき分けて、皮膚を乾かすような感じでドライヤーを当てます。
水分が手につかなくなって、ある程度乾いてきたらドライヤーを30cmくらい離してブローしていきます。

乾かし始めは近づける

ある程度乾いたら離して乾かす

ブローの時はコームやスリッカーを使います。この時のポイントは毛先から少しずつ、毛のもつれをほどくようにスリッカーなどを使うことです。
いきなり毛の根元からやろうとすると、絡まっている毛が引っかかって痛いので、必ず毛先からやるようにしてください。
基本的にはスリッカーでブラッシングし、顔周りなど、スリッカーだと痛そうなところはコームを使うと良いですよ。

スリッカーとコーム

足も先端から少しずつ、毛先から

顔周りはコームがおすすめ

スリッカーなどを使うときは、皮膚をしっかりと持ってあげることも大切です。犬の皮膚はゆるゆると動くので、そのままやろうとすると皮膚が動いて痛みや不快感が出てしまい、犬が嫌がってしまいます。
それと、コームやスリッカーを使うときは皮膚に対して垂直に入れてしまうと犬が痛がるので、斜めに入れるようにすると良いです。

皮膚に垂直にすると痛い

斜めにブラシを入れると痛みが少ない

佐々木
私はパピヨンを飼っていますが、ブラッシングがうまくできていないのか、脇に毛玉がよくできてしまいます。
脇は、無理に開いてブラッシングしても嫌がりますし、やりづらい場所です。
そういう場合は体を倒して、腕を少し引っ張るような感じで行うとやりやすいですよ。毛の生えている方向にブラシをすることになるので、痛みも少なくなります。

無理に腕を開くと嫌がってしまう

腕を前方に少し引っ張った態勢だと痛みも少なく、ブラッシングしやすい

佐々木
痛みが抑えられれば、ブラッシングを嫌がることもあまりなくなるでしょうね。
最後に、犬の飼い主さんに向けて一言メッセージをお願いします。
シャンプーやブラッシングなどのケアについて、うまくできないなと感じたら、自己流でやるのではなく、近くのトリマーさんなどに正しいやり方を聞くようにしてください。
無理矢理やるのではなく、犬が気持ち良いケアをしてあげることで、飼い主さんと犬も良い関係を築けるようになると思います。
佐々木
ありがとうございました。

お手入れQ&A

Q. サマーカットする際の注意点はありますか?
A. 理想は5mm以上の長さにしてください。短すぎると、散歩時に直射日光が当たったり、適切に体温調節ができなくなってしまいます。
Q. 涙やけのケアは?
A. 固まっているところを無理にはがそうとすると皮膚炎になることがあるので、少しずつ濡らしてふやかしながら取り除いてあげてください。
Q. 耳掃除は必要?
A. 基本的には不要。見える部分を拭き取る程度で十分です。炎症がある場合は病院で処置してもらってください。
Q. 肛門腺絞りはどうすれば良い?
A. やり方が難しいので、なるべく病院やサロンでやってもらってください。